◆ かわいくない ◆  カラスさま



『ゆるり』の7777(正確には7734…笑)を踏んで、カラスさまからいただきました。18禁だからね、お子様は読んじゃダメなのだ。大人のお楽しみ♪ 基本が切ない系の『ゆるり』で、私は最初からこのシリーズが好きって言ったってことは鼻が利くってコトなのかしらん。やだわ。



 赤城はかわいくない。これを本人に言うとまるで褒め言葉のように受け取るので言わないが、その外見も性格も、表現するなら間違いなく"かわいくない"というのがしっくりくる。しかも、三十男のくせに時々わがままで理不尽な事を言う子供みたいになり、おまけに三白眼に冷笑が加わって、かわいくない事この上ないのだ。あんまり度が過ぎると、殴り倒そうかと思ったりする。
 しかし、それも結局俺にだけ見せる顔だと思うと、何だかんだと言って許してしまう。俺の事は大切にしてくれるし、必要としてくれてるし、時々深いところで繋がっているのを感じる事があるから、最後には赤城と離れたくないと思ったりしているのだ。
 俺は赤城に振り回される事に怒ったりしながら、それを悪くないと感じるようになっていた。
 赤城はもう、俺がいないとやっていけない。あの歪んだ性格は、俺じゃないと受け止めてやれない。俺ならどんな事だって平気だ。
 赤城は俺に満たされて、そんな赤城に俺も満足する――そういう関係が俺たちの間では当たり前になって来ていた。
 だから、赤城が言うなら、何だってやってやれる。


 「何だってやってくれるんだろう?」
 そう言って見下ろしてくる三白眼。鋭利な顔立ちにその目は似合い過ぎるくらい似合っていて、まるで映画に出て来る悪役だった。
 俺はお前が言うなら何だってやってやるよ――。
 いつそんな事を言ったのかは覚えていない。そう思っていたのは確かだが、そう言ってしまうと赤城は調子に乗るから言ってはダメだと言い聞かせていたはずだ。
 なのに――。
 「言わなかったとは言わせないぞ」
 楽しそうに細められる切れ長の目が、怯えてしまった俺を捉える。
 ベッドの上。赤城と二人だけの寝室。熱を帯びた俺の体。
 それだけ揃ってりゃ、俺がうろたえないわけはなかった。
 そもそも、こうやって蛇に睨まれたカエル状態になったのは、俺が悪いと言えば悪いのだが――。
 ほんの十五分前、狭いベッドの上で欲情してしまった俺は、寝ている赤城の傍で一人抜くのも何だったので、遠慮がちに奴を揺すり起こした。
 「ね、赤城。起きろよ」
 「――」
 「こらっ!起きやがれっ!」
 「――ぅるせっ」
 毛布に包まって背を向ける赤城にのしかかった。赤城とセックスがしたくて下半身を擦り付けてねだってみる。
 「赤城、お願いだから」
 本当は男とのセックスにどこか嫌悪を感じている俺だったが、そんな精神的な部分より"今すぐセックスしたい"という動物的な性欲の方が勝る時も多々ある。
 そういう時に、日頃体を繋ぎ合わせている相手が横で寝ていたら、そりゃそれが男でもお願いしてしまうだろう。
 「しようよ」
 今にも深い眠りに落ちて行きそうな赤城の耳を引っ張る。
 「セックス、しよ」
 赤城は薄目を開けて軽く睨むと、
 「――自分でやってろ。俺は寝る」
 そっけなく言い放ってまた目を閉じた。
 かわいくない。いつも俺が相手してやってるのに、たまには俺の相手をしてくれてもいいじゃないか。人付き合いはギブ アンド テイクだぞ?
 そんな風に思って俺は奴の上に馬乗りになると、思い切り頭を引っぱたいた。
 「俺が発情してんだ!起きて相手しやがれっ!」
 とにかくやりたかった。体中に熱がこもって仕方ない。これを吐き出さない事には、目が冴えて眠れそうになかった。
 さすがに赤城が体を仰向けにしてきた。寝起きの、感じ悪い顔付きで、跨っている俺を見つめてくる。やれやれといった感じで手を差し伸べてきて俺の肩を掴むと、ひょいとベッドに押し倒した。
 上下が逆になって、俺は赤城を見上げながら腕を伸ばした。
 しかしそれをやんわりと遮られる。
 ニヤリと笑ったその顔が、良からぬ事を考えているとすぐに分かる。
 「一人でやってみろよ」
 ――アホな……。一人でやりたくないから起こしたのに。
 お前の前で一人でやるくらいなら、起こさずこっそりオナってるよ。
 「バカ言うな。せっかく起きたんだから、やろうぜ」
 赤城はしかし、意地の悪い笑みを崩さなかった。
 「何だってやってくれるんだろう?」
 「……へ?」
 「言わなかったとは言わせないぞ」
 言わなかったと思うぞ?そんな事。何度も思いはしていたが。
 俺はうろたえた。明かに赤城は楽しんでいる。体がやりたがっている俺の目の前で、奴の顔は無慈悲な悪魔に見えてきた。
 俺はただセックスしたいから起こしただけなのに。
 お前、求められたんだから素直に喜んで、素直に俺を食ってくれよ。
 俺がねだる事なんて、あんまりないだろうが。
 漠然と嫌な予感がして、俺は身を捩った。その股間に、赤城の膝が乗せられる。
 「んっ……」
 思わず声を漏らした俺から、赤城はスッと逃げた。再び横になると、もぞもぞと毛布に包まって、俺を笑いながら見つめてくる。
 「一人でやってみな。見ててやるから」
 勘弁してくれ。イヤだってば。
 俺はふて腐れて自分も毛布にくるまった。
 「何でもやってくれるんだろう?」
 もう一度、赤城が言う。それを無視して背中を向けると、お尻に奴の手が這ってきた。パジャマの上から割れ目をなぞられ、体がビクリと震える。その手はそのまま流れるように俺の前にやって来て、熱を持った俺のモノをからかうように愛撫した。
 「ふぅ……ん……」
 そしてすぐに離れていった。
 何てこった――こんなの我慢できるわけがない。半起ちになった俺のモノが、行き場がなくて熱を帯びはじめていた。
 「――赤城」
 「何だ?」
 「お願い」
 「一人でやれって。俺は疲れてるんだ。相手出来ない」
 ウソつけ。面白がってるだけだろう。
 俺は段々腹が立ってきて、腹が立つと肝が据わってきた。もうどうにでもなれだ。
 赤城に背を向けたまま、そっと自分の股間に手を伸ばす。あまり力を入れずに扱くと、それだけで全身が痺れたようになった。
 ヤッテやるよ。いいともさ。これ見ておっ起てやがったら、今度は俺が一人エッチ見物してやる。覚悟しとけよ。
 俺は目を閉じて、自分の世界に耽ることにした。右手で扱きながら、左手を胸に持って行って突起を揉み解す。鎖骨や腹に手を這わせると、背筋にビリビリと何かが走った。
 赤城とセックスをするようになって、今まで知らなかった感じる場所がたくさんある事を覚えた。本当は、普通にセックスしてりゃ知る事もなかったのかもしれないけど。
 自分の浮き出た骨を愛撫して痺れるなんて事、想像も出来なかった。
 「は――あ……」
 無意識のうちに声が出た。無心に自分を高めながら、次第にある一点が疼いてくる。
 仰向けになり、わずかに足を浮かせて、濡れた右手を後ろに持っていった。
 乾いた穴は、緊張したようにすぼまっている。ゆるゆるとほぐしながら人差し指を入れて行くと、それだけで興奮した。
 軽くもがいて、いつの間にか毛布が足元に転がっているのに気付く。赤城がそっとめくったようだった。よく見えるように。
 でも、それすらもうどうでも良かった。ゆっくりと指を出し入れして、もう一本増やす。圧迫感と共に鈍い心地良さが滲み出てきた。緩急をつけながら、ひたすら自分で自分を追い詰める。時々濡れた音がするのも、気にならなかった。
 「ふぅ――」
 膝が震える。緩慢にシーツの上を這う自分の足からどんどん力が抜けて行った。
 ――欲しい。本当はもっと質量のある物で満たして欲しい。指だけじゃ物足りない事を体は覚えてしまっている。苦しくて辛くて、でもその後に感じる眩むような快感。赤城が与えてくれるもの。
 「赤城……お願い――」
 上ずった声で言ってみたが、やっぱりダメだった。どんな顔で俺を見ているのか、確かめる余裕もなくなっていた。
 俺自身、きっと凄いイってる顔をしてるんだろう。二人でやってる時ならお互いさまだから平気なんだけど、俺一人ハアハア言ってるのはそれだけで自虐的になる。
 「ああ……ん、あっ――」
 急速に一点から全身に凄まじい快感が走り抜けて、俺は仰け反ると、息を詰めて果てた。
 ――見られるのって、凄く感じる。それが赤城だからなおの事。気だるい体はもう少し確かな感触を欲していたが、熱を出したので満足といえば満足だった。
 ちょっと顔を傾けると、顔の横にティッシュが置かれていた。その間の良さに何だか恥かしくなってくる。乱暴に取って汚れを拭くと、赤城に投げ付けた。
 しれっとした顔でそれをすぐにごみ箱へ放り投げる。何だか顔を見ていられなくて、赤城の毛布を引っ張って背を向けた。
 こんな事――今だかつてした事ない。野郎同士でビデオ見てる時ならまだしも、一人エッチなんて人に見せるもんじゃないだろう。熱が冷めると段々恥かしさが増してきた。普通に生きてりゃこんな事にはならないんだ。もう、全部、赤城のせい。このどうしようもなく根性の捻じ曲がった、冷たくて傲慢な悪魔のせい。誰も近寄らないようなこの男と関係を持った自分を呪いたくなる。
 「環――」
 ――何だよ。今更そんな掠れた声で俺を呼ぶな。お前のその声は、腰に来るんだ、腰に。
 「環――」
 「うるせぇよ。俺は寝るんだ」
 吐き捨てるように言うと、後ろから赤城が抱き締めてきた。ピッタリと体を寄せてくる。
 ――ちょっと待て。なんか固い物があるンすけど。腰の辺りにビンビンしたものが。
 「知らねぇよ」
 そう言うと、上に圧し掛かられて、暴れる両手を押え付けられてしまった。ニッと笑った悪魔。今にも舌なめずりしそうだ。
 「欲しくなった」
 「今度はお前一人でしろよっ」
 「俺が欲しいのはお前」
 耳元でそう囁かれて、俺の腰はゾクゾクと震えた。待て待て!なんて奴だ、自分勝手な!おまけに俺もそれに感じるな、この根性なしが!
 「イヤだ。俺、さっきので疲れた」
 「欲しいよ――」
 ――これを、かわいいと思ってしまうから、俺はいけないんだろう。赤城に求められると、俺は本当に何でもしてやりたくなる。こいつが欲しいなんて言う事、俺以外には有り得ないから。
 「じゃあ、お願いしてみな。下さいって」
 俺は優位に立ったものの言い方をした。そのくらいは許されるだろう。こいつのかわいいところを味わう権利は十分にあるぞ。
 そう思ってニヤリと笑いかけてやると、その数百倍悪人な笑みを赤城は浮かべた。
 「一人でやって満足できてないのはお前の方だろう?お願いしてみな、ちゃんと入れてやるから」
 「な、な、な……」
 喚き散らそうとした俺の唇を、赤城が塞いだ。意地悪なこの男からは想像も出来ない、優しいキス。引き出すような、柔らかいキスだ。
 何てこった――さっきかわいいと思った男は、一体どこへ行ったんだ。
 「ふ――ん……」
 俺は足を赤城の体に絡ませた。
 「お願い――ちょうだい……」
 キスをする赤城の唇が、笑みの形に変わる。俺の唇を味わいながら、両手が体を這い回り始めた。優しく皮膚を滑り、骨を撫でる。それだけで、再び体に欲望の火がついた。
 「ああ――やってやるよ」
 ――かわいくない。やっぱりこいつは、かわいくない。理不尽でわがままで子供みたいで、その上、俺の体を喜ばす事を知り尽くしてる。
 笑っても悪魔。怒っても悪魔。やってる時でさえ――。
 「環……」
 切なそうに赤城が俺を呼んだ。俺の胸を舌で愛撫しながら、俺の下半身を裸にしていく。
再び起ち上がりかけた俺のモノを、やんわりと握り込んだ。俺の変化に合わせて、ゆっくりと扱き始める。
 やってる時はさすがに悪魔じゃない、そう思った。
 なのに――。
 「お前、溜まってンの?やらしーね」
 そうやって笑う赤城は、やっぱり悪魔でかわいくなかった。
 前言撤回。お前はどうしようもない性悪だ。どうしようもなく腹立たしくて何か言い返してやろうと思ったけど、口を開いたら全部喘ぎ声になってしまった。
 ――畜生、覚えてろ。


END

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