◆ SIMPLE番外編 −コタツにミカン− ◆  カラスさま



『ゆるり』で、年末年始の限定掲載されていたものを無理矢理奪ってきました。だって、これを消滅させるとか言うんですよ? そんなもったいないことさせられないでしょう。


 年末年始は一緒に過ごそうと、鹿島さんを誘った。
お正月だからといってどこにも帰る所がない彼が可哀相だった事もあるし。
何より、亜佐美がそれを望んでいた。
ウチの母親は、どうやら鹿島さんに惚れてしまったらしい。
もちろん、恋愛対象とかそんなんじゃなくて、アイドルに近い感じだけど。
ちょっと翳があるところなんか「すっごくイイのよー」らしい。
そう言う彼女の顔は締まりがない。
確かに俺だって、「すっごくイイのよー」って思ってるけど。
この親にしてこの子ありだ。

で、誘ったって絶対にうんと言わないと思ったけど、やっぱり鹿島さんは断ってきた。
友達と初詣に行くなんて言ってたけど、鹿島さん、そんなんウソだって分からないくらい俺の愛情はちっちゃいモンじゃないですよ?
ごりごり誘いつづけたら、最後は諦めてくれた。やっぱり素直じゃない。

「何か見たいものあります?」
客間にコタツを置いて、その上にミカンを置いて、すっかり年越しの準備を整えた亜佐美と俺と鹿島さんは、テレビを見ながらくつろいでいた。
昼間の大掃除とお節作りを手伝った鹿島さんは、ちょっとお疲れに見える。
コタツの中でツンと足を突つくと、頼りない視線を向けられた。
「テレビ。何か見たいのあります?」
「私、バラエティーがいいな」
「母さんには聞いてないでしょ」
「バラエティーでいいよ」
「ほらー。遠慮しちゃったじゃないか」
「あ、ゴメンナサイ。鹿島さん、お好きなのをどうぞ」
「いや、いいですよ、何でも。特に見たいものってないですから」

――ウソ。さっきから、チャンネル帰る度に、目が輝く番組がありますよ。
そんな事に気付かないくらい俺の愛情はちっちゃいモンじゃないんですってば。

「紅白にしましょうか」
俺がそう言って番組を合わせると、鹿島さんはちらりと俺を見て、少し俯いた。
しばらくすると、さあーっと顔が赤くなっていく。
「――あら?鹿島さん、どうかなさいました?」
無邪気に聞いてくる亜佐美に、鹿島さんはちょっと怒ったような顔で俺を見る。
そして落ち付きない感じで亜佐美に答えた。
「あの――ずっと憧れていて――家族で年末にこうやってコタツに入って、紅白を見るの。昔はなんか、紅白見たらお正月みたいな感じがしていて。今はそんな事ないんですけど――」

――カワイイ……あぁ、この人、マジで可愛いよ。紅白一つでこんなに顔赤くするなんてさ。よっぽど夢だったんだろうね。
早く言ってくれりゃいいのに。

「では、年が明けたら、家族で初詣へ行きましょうね」
そう言うと、やっぱり鹿島さんは困ったような顔で耳まで赤くした。
こんな顔、会社でも見せてくれないかなぁ。
ポーっと鹿島さんの顔を見ていたら、足を蹴られてしまった。
はいはい。ごめんなさいよ。だって可愛いんだもん。それ言っちゃ怒るだろうけど。
でも、安心して喜んで下さいね。
鹿島さんが今まで味わえなかった事、もっとたくさんしてあげますからね。
紅白に見入る鹿島さんの足を、自分の足でするすると撫でると、同じような柔らかさで撫で返してきた。
ありがとうとでも言ってるのか。優しい足だった。

流行り歌の一曲も知らない鹿島さんが紅白を見てるのは、やっぱり歌を聴いているのではなく、その雰囲気を味わっているからだろう。
そう思うと、コタツにミカンと紅白な年越しも、全然悪くなかった。
来年も、こうやって年を越せたらいいね。

END






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