◆ The Invisible Man ◆ Yuriさま |
齢30でまさか路頭に放り出されるはずではなかったと青年は愕然としていた。
世は不況のどん底のまっただ中。使えなければすぐに放り出されてしまう。 社会の厳しさは重々承知していたつもりだったが現実に直面すると言葉が出ない。 こんな、みっともない話があるものか。冗談じゃねぇ、畜生! こういう時は、ぱりっとしたブランド物のスーツが余りにも哀しい。 金の切れ目は女の切れ目。 青年の彼女は、彼がリストラされたと知るやいなや、態度を豹変させて 彼の元を足早に立ち去っていった。そりゃあ、好きなだけセックスさせてくれる 便利な女だと思っていたフシもあった。だけど、愛していたはず…。 どしゃぶりの雨が荒んだ心に追い討ちをかける。 少しの金と少しの名誉。 街で拾った女を抱いてみた。ひだ肉からしたたる樹液がとろりと熱い。 凝り固まった結実を弄んで、締まりの良い包子に酔い痴れた。 しかし、それも刹那がもたらす直情的な快楽に過ぎない。 女は笑顔で金をふんだくると、青年の前から姿を消した。 眩しい夜空に針のような雨。 青年は街を闊歩していた。行く宛などどこにもない。 けたたましく通り過ぎる1×1の群れに吐き気がしそうになった。 いかがわしい発色のネオンがひしめく場所柄、仕方がないのであるが。 ひとまずこの鬱陶しさから逃れようと、さらに深い路地へ潜り込んだ。 ビルとビルの谷間。 ほっと溜め息をつく。こういう場所こそ、俺の居場所だ。 どこまでも続く枝分かれした小路を突き進む。人影はない。 青年は不意に立ち止まった。奇妙な看板を見つけたからだ。 『めくるめく喜びを君にあげよう』 ボッタクリバーでもなさそうだし、青年は好奇心と冷やかしからドアを開いた。 中には壮年に見える男が寂しそうにソファに腰掛けていた。 品のある顔立ちが不思議な色気を放っている。男は青年の姿を認めると、 つい、と手招きし酒を手渡した。強い酒で、匂いだけで酔ってしまいそうだった。 心地良い音楽が、からからに乾いた心と体を満たしていった。 「君、さっきまで女を抱いていただろう」 「?」 「私にはわかるよ。とめどない愛液の匂いがするからね」 「今どき愛液って…」 「ポルノ的だろう?私はこういう言葉が大好きだ」 そんなくだらない話が2時間くらい続いただろうか。 いつしか酒のボトルは底を尽き、新しいボトルの中身が波打っていた。 青年は得体の知れない男の風情にすっかり惚れ込み、 へらへらとした喋くりを遠慮なく繰り広げていた。 男の甘い罠に引っ掛かったとも知らずに…。 「そろそろ帰るわ。ありがとう、気持良くなった」 そう言って青年は席を立った。適当な額の金を手渡すと、翻ってドアに向かった。 しかし、背後から伸びた屈強な腕に絡め取られ、すぐに身動きが取れなくなった。 「何する!」 「看板を見ただろう?まだ最後の仕上げが残っているからね」 男の口調は問答無用だった。 ついでに言うと、張り詰めた股間も問答無用だった。 強引に唇を奪われ、四肢を押さえ付けられ、身ぐるみを剥がされた。 男のごつごつした指先は、何人の服を脱がせてきたのだろうか。 酒のせいもあり、青年の抵抗する力はどこかへ行ってしまった。 「悪いようにはしない。むしろ、感謝されるようにしてあげよう」 「冗談じゃない」 「体は正直だね。もう、こんなに張り詰めているじゃないか」 「ぐ…」 「ゆっくり体の力を抜けば良い」 青年はもうどうでも良いやという気分になっていた。 何もかも失ってしまったから、もうこれ以上躊躇うことはないんじゃないかと。 決してゲイではなかったが、こういうことも悪くはない。 ベッドの上で下になるという気持ちは、一体どんなものだろう…。 男の、神経の行き届いた愛撫は女のそれに劣らなかった。 「ひ…っ」 「そんな色気のない声を出すものじゃないよ」 「あうあうあう」 「まあ、慣れていないから仕方がないがね: 「あ…」 指先が敏感な部分に否応無しに入り込んできて、青年は恐くなった。 本当に、本当にそんなことをしてしまって良いのだろうか。 二度と戻れない道を踏み出してしまうのではないか…? 「大丈夫だよ」 男が耳元で囁きかけた。青年の中の脆い一枚岩ががらがらと崩れ去った。 それは少しずつ体の奥を切り開いて行く。 疼痛と未知の刺激が下半身を痺れさせる。何故だか涙が滲んできた。 青年は男の背中にしがみついて、今まで聞いたことのない声を上げる。 男がうっすらと滲んだ涙の欠片を舌で拭った。 目を見開いて男の顔を認めた瞬間、何かが弾け飛んだ。 「君は素質があるよ」 男はとても満足そうに笑った。青年もつられて笑った。 「悪くないだろう?」 「ああ…」 「そういう満足そうな顔を、女の時にも出来るかい?」 結局、事は1回だけで終わったが、青年は想像以上の満足を手に入れた。 男もまた、獲物にありつけた喜びで満足していたに違いない。 「いつか、また来るよ」 「ああ、当てにしていないから安心しなさい」 男は表まで見送ることはなかった。関係はドアを境目にぷつりと断たれた。 荒んだ気持ちが見せた、ただ、一夜の幻さ。 青年は足取り軽く、眩しい陽の光が照らす道を歩いた。 |
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