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愛は裸眼で0.05-2-



「それで幸宏くんはどうなの?」
 俺は三輪が離婚すると言ったことを、真帆に告げた。無性に誰かに三輪の話をしたかった。黙って聞いていた真帆は俯いたまま幸宏のことを口にした。
「知らないな。俺たちずっと顔を合わせてないんだ」
 あれから俺と幸宏は冷戦状態だった。幸宏はほとんど家に帰って来ない。今さらのことではなかったし、俺も幸宏のことを言えた義理ではないが、幸宏がどこにいるかを考えたら、やっぱり腹立たしかった。
「幸宏の考えてることはわかんねえよ。なんでわざわざ十二歳も年上のおばさんとつき合うんだか。あいつ、別にもてないわけじゃないんだぜ。他にもっと手頃な相手がいるのに」
「宝地戸くん、ひどい」
 いきなり真帆は俺を非難してきた。まるでベソをかいているような表情だった。
「私、やっぱり宝地戸くんとはダメみたい。別れましょう」
 あまりに唐突な言葉に、俺は呆気に取られた。
「いきなりなんなんだよ?」
「宝地戸くん、私のこと、どう思ってるの?」
 俺は真帆が単に拗ねているのだと思った。もしかして何度かすっぽかしたのを気にしてるのか。苦笑して引き寄せようとした。
「バカ。好きだよ、もちろん。可愛いと思うよ」
 耳元に囁く。このままエッチになだれ込めるかもしれない。頭の隅でそんな計算もした。
「信じられない」
 真帆は首を振った。
「宝地戸くんが私のことを好きだって、どうしても思えない」
「好きだってば。俺は真帆が好き。エッチしたいと思ってるよ」
 抱きしめる俺の腕を真帆は避けて、うずくまった。
「…私は、宝地戸くんが好きかどうかわからない」
「じゃあ、いいよ」
 思った以上に頑なな態度を取られて、面倒になった俺はふてくされて真帆から離れた。
 それっきり本当に俺たちは別れてしまった。後で何度か真帆の携帯に連絡を入れたが、真帆から返事は返って来なかった。俺はさっさと諦めることにした。その気のない相手を追いかけ回すストーカーのような真似はできない。
 ひとしきり「振られた、振られた」と友人たちにこぼして回ったら、すっきりした。すぐに合コンの誘いがかかるようになったので、気持ちを切り替えて新しい出会いを探すことにした。



 中学校からエスカレーター式だという、わりとお嬢様系の短大生たちは、前評判通りイケイケばかりだった。最初の居酒屋で顔を合わせた途端、一斉にキャーと声を上げて笑い転げる。
「何、何、どうしたの?」
 こっちの一人がつられて半分笑いながら問いかけると
「だって、ねえ?」
 と、顔を見合わせて、クスクス笑う。
「みんな、**大学らしくないんだもーん」
「え、何、どういう意味?」
「**大学ってもっと真面目っていうかー、お堅いっていうかー」
「え、俺たち、真面目だよ、なあ?」
 お約束通りに展開していく合コンは、単なるゲームだった。特につき合いたいようなコはいなかったが、運良く誰かお持ち帰りできればしめたものだ。一通り女の子たちのチェックを終えると、俺は割り切ってゲームに参加することにした。
「えー、宝地戸くん、振られちゃったの?」
 なんだかんだ言って、席が近いというのがポイントだ。一次会の終わりの頃には俺は隣の子とツーショット状態だった。
「そうなんだよ。可哀そうだろ。なぐさめて」
 俺の台詞に、女の子は「よちよち」と言って抱きしめてきた。柔かい胸がもろに頬にあたる。なんてお手軽なんだ。これはほんとにお持ち帰りできるかもしれない。真面目につき合おうとして結局逃げられるくらいなら、簡単にエッチできるコのほうが面倒がなくていい。
 俺は二次会にカフェバーを提案した。駅前にちょっといい感じのところがあって、真帆と一度行ったことがある。どうせ真帆はバイトの日のはずだし、もともとあんなところに行くタイプではないと高をくくった。鉢合わせしたら見せつけてやってもいい。
 意気揚揚と店に入った俺は、カウンターに見覚えのある姿を見つけて、足を止めた。
「あ」
 三輪だった。俺に気づいた三輪はちょっと手をあげて合図して、そのまま連れのほうに顔を向けた。連れは男が一人に女が二人。女二人を間に挟んで飲んでいて、しっかり二組のカップルができているようだった。おっさんのくせに合コンかよ。なんだかムッとした。
「宝地戸、早く坐れよ」
 奥のテーブルを陣取った仲間に手招きされて、俺はそっちに行った。さっきの女の子の隣がしっかり空けられていた。素直にそこに坐ったものの、その席からはカウンターが視界に入ってきた。三輪は隣の女に顔を向けて、深刻そうな表情を作ったり、時折微笑してみせたりしている。言葉は全然聞こえない。
 俺の隣でも女の子が何か話しかけていたが、ほとんど頭に入らなかった。知らず眉間に皺が寄っていた。女の子が俺の肩に手をかけて覗き込んできた。
「ねえ、なんか不機嫌じゃなーい?」
 わかってるなら、ほっとけよ。バカ女にベタベタと触られる不快感。俺はお持ち帰りするつもりだった気分がすっかりそがれていた。邪険にあしらっているうちに、さすがの女の子も悟ったらしい。つまらなそうなふてくされた態度になって、俺を無視し始めた。
 三輪のほうを見ていた俺にはどうでもいいことだった。三輪が隣の女に何か囁き、肩を揺らした女は、軽く三輪の腕に触れた。そんな様子を見て俺は無意識に舌打ちしていた。女の子が驚いた顔で俺を見るのを感じた。
 三輪の奴、離婚した途端、新しい相手を作ったのか。真面目そうな顔して節操なし。なぐさめてやりたいと思ってたのに。
「な、カラオケに行かないか」
 俺だけのせいではないと思うが、二次会はあまり盛り上がらなかった。気分を変えるように一人が提案して、俺たちは店を出ることになった。カウンターの後ろを通った時、三輪が再び軽く合図をよこしたが、俺は目もくれなかった。
「悪いんだけど」
 店を出て歩き出して少し経ち、俺は足を止めた。
「俺、さっきの店に知り合いがいて。ちょっと用があるんだ。だから、ここで別れる」
 一斉に上がった不審と不満の声を無視して、背を向けた。
 店の見える角まで戻った時、出てくる三輪たちを見つけた。こちらには気づかずに歩き出す。俺は慌てて足を速めた。三輪たちは二手に分かれた。駅に向かうカップルを見送って、三輪は女と駐車場に向かった。ちくしょう。
「三輪さん!」
 駐車場で車に乗り込もうとしていた三輪は、飛び出していった俺に、唖然とした表情になった。
「きみ…」
「誰?」
 当然のように助手席に坐っている女が問いかける。
「ちょっと、知ってる子なんだ」
 俺は女を無視して、三輪につめ寄った。
「俺、あんたンちに忘れた物があるんだ。取りに行かせてよ」
 上目遣いに睨みつけると、眉をひそめて俺を見ていた三輪は、やがてため息をついた。
「彼女を送っていくから、その後でいいなら」
 後部座席に乗せられた俺は、ずっと三輪を睨んでいた。助手席の女が時折視線を向けてくる。俺は一切そちらを見なかった。
 女の家の前に停めた車に俺を残し、三輪は女と何か話していた。女が玄関に入るのを見届けて車に戻ってくる。
「助手席に来るか?」
 三輪が訊いたが、答えなかった。
「忘れ物って何? 俺は気づかなかったけど」
「…」
 唇を引き結んで窓の外を睨んでいたら、三輪は諦めたように車を発進させた。
「何を忘れたんだ?」
 三輪の家に上がって改めて訊かれた。居間のソファにふんぞり返って俺は挑戦的に顎を突き出した。
「忘れ物なんかないよ。嘘に決まってんだろ」
「いい加減にしなさい。酔っているんだろう」
 たしなめられてムカムカした。なんでそんなに大人ぶるんだ。
「離婚しちゃえば奥さんのことはさっさと忘れるんだ。すぐに新しい女ができたってわけ」
「彼女は友人だよ」
「ふざけんな。仲良く話してたじゃないか」
「きみには関係ないだろう?」
 かーっと頭に血が上った。立ち上がって三輪に手を伸ばした。そうだよ、俺は三輪に関係ない。ああ、くそっ、関係ない奴のせいで、エッチできなかった。俺は無性に腹が立って、三輪をソファに押しつけた。
「あんたのせいで、俺は今日、女の子をお持ち帰りしそこねたんだ。恋人とも別れちゃったし、すっげーたまってたのにさ。そういえば、あんたもたまってんじゃないの? 奥さんが出て行ってから、誰かとやった? やってないよな」
 言いながら俺は三輪のズボンを引き下ろした。下着をずらし、性器を引き出す。
「やめなさい」
 慌てたような制止の声を無視して、手でつかみ先端に口をつけた。
「こ、こら」
 狼狽して髪をつかまれたが、俺は離れなかった。離婚したんだからたまっている筈だ。思い切って口の中に含んでしまった。舌を使っていくうちに徐々に形を成していく。
 真帆の前につき合っていた女は口にすることを嫌がりはしなかったが、あまりうまくなかった。それがじれったくて俺が苛々すると「どうすればいいのか言ってよ」と言いやがった。その一言は俺を見事に萎えさせた。言葉で説明なんかできるもんか。あれもその女と別れた一因だったな。
「う…」
 必死で堪えているらしい、聴こえるか聴こえないかの微かな三輪の喘ぎが俺の興奮を煽る。見ろ、俺ならあの女よりうまくできるんだ。自分のジーンズがきつくなっていた。俺は三輪のモノが口から外れないように気を使いながら、ジーンズの前を開けた。我慢できなくなって、身体を引き上げて自分の性器を三輪のモノに擦りつけて、両手で一緒に握り込んだ。
「はあッ」
 強烈な刺激に目の前が一瞬真紅に染まった。夢中で三輪の口に唇を押し当て舌をこじ入れると、三輪は顔をそらして逃げようとした。自分のモノをくわえられていたから抵抗があるんだろう。俺はかまわずに噛みついた。二つの性器をまとめて両手で揉みしだきながら腰を使って擦り合わせる。
「…ッ!」
 先に三輪のモノが爆発して、それが俺への引き金だった。ぐっとせり上がってきた勢いのままに迸らせた。
「はあぁ…」
 自分のため息になんだか切なくなってしまった。精液でべたべたの手のまま三輪の頬を挟んで口づける。上がっている息をそのまま三輪の口内に送り込んでやった。
 勝手に三輪の腕を枕にして仰向けになると、三輪の手が俺の髪に触れかけて、とまどったように離れた。
「帰りなさい」
 ややあって、静かな声が告げた。
「え?」
 ちょっと首をもたげた俺の下から、三輪は腕を引き抜いた。上体を起こして、いきなり激昂したように怒鳴り出す。
「帰れ。おまえみたいな若い奴の考えてることは俺には理解できない。帰ってくれ」
「なんだよ、いきなり。いいじゃんか、気持ちよかっただろ」
「ふざけるな。さっさと出て行け。二度と俺の前に現れるんじゃない」
「ち、ちょっと!」
 腕を取られ乱暴に引き立てられながら、俺は慌ててジーンズのジッパーを引き上げた。
「二度と会わない」
 玄関から押し出され、間髪を入れずに鍵の音が響いた。俺はドアにもたれたままその場にズルズルと坐り込んだ。
 少しずつ頭が冷えてくる。俺、なんであんなことしたんだろう。下着の中が少しぬるついていた。玄関脇に水道を見つけて手を洗った。三輪と俺の欲望を洗い流してしまうとふいに悲しくなった。じんわりと涙が浮かんできた。何故だ?
 晩秋の風が音を立てて吹き抜けてゆく。身を切るような寒さに俺は身体を丸めた。
 この寒空に三輪は俺を追い出した。そう考えたら悔しくて涙が溢れた。頬を伝う涙が風で冷えて痛かった。鼻水まで出てきて俺はすすり上げた。三輪が気を変えて中に入れてくれることを願った。玄関先でグズグズと泣いていたが、俺のためにドアが開かれることはなかった。
 三十分ももたずに俺は寒さに耐え切れなくなった。敷石の冷たさに坐っていることができずに腰を浮かしていたら足が痺れて感覚がなくなった。
 俺はよろよろと歩き出した。三輪の非情さに「ちくしょう」と呟きながら俺はひたすら歩いた。だらだらと流れ落ちる涙を肘の内側で何度もこすり上げる。一時間以上もかけて家に辿り着いた俺はボロボロだった。
 そして風呂に入った俺は、当然のごとく熱を出した。
 三輪の仕打ちに怒りを覚えているうちはよかった。自分だってしっかりイったくせに俺を放り出しやがって。俺がこのまま死んだら三輪のせいだ。
 だが徐々に熱が冷めてくると、ひどく切ない気分に支配された。俺を追い出した三輪に対して、怒りではなく悲しみが浮かんでくる。三輪には俺なんかどうでもいいんだ。あのまま玄関先で凍死してやればよかった。そうしたら後悔してくれただろうか。例えば三輪は俺のために泣いてくれるだろうか。
 俺は、もしかして三輪が好きなんだろうか。
 胸の片隅にふいにひょこっと顔を出したその疑問は、瞬く間に全身に回り、疑問ではなく確信として根を張ってしまった。
 俺は三輪が好きなんだ。
 コンビニで見かけていた時から気になっていた。もしかしてあの時から好きだったんだろうか。こんな気持ちは初めてだった。熱のせいで思考能力を失ったまま、ただ三輪を想った。切なくて身悶えしたくなる。
 二度と会わないと言った三輪の声が響いた。いやだ、そんなの。俺は三輪がほしい。手に入らないなら死んでしまう。切羽詰った気持ちで強く思った。



 三日後、完全に熱が引くと俺は三輪の家に押しかけた。玄関のチャイムを鳴らしても三輪はドアを開けなかった。車があったし、チャイムを鳴らした時にドアの向こうに気配がしたから、いるのは確実だった。俺は何度もドアを叩いた。じきに手が痛くなったが、ドアは開かれない。
 俺は庭に回った。目につく全ての窓から家の中を覗き込んだ。居間のテラス窓を透して、奥のキッチンのテーブルで頭を抱えている三輪を見つけて、ガラスを叩いた。三輪がぎょっとした顔を上げる。
「開けろよ! 開けてくれなきゃガラスを割るからな」
 何度か叫ぶと、三輪は窓に近づいて来た。
「もう来るなと言っただろう」
「俺、あんたに言わなきゃいけないことがあるんだ!」
 必死で叫んだ後、知らず懇願する口調になった。
「頼むよ、開けてくれよ」
 声は三輪には聴こえなかったかもしれないが、三輪の手が鍵にかかり、俺の前に窓が開放された。テラスに靴を脱いで中に入ると、暖かくエアコンのついた室内に気が緩んだのか、ふと涙がこぼれそうになった。
「謝りに来たのか?」
 三輪の声が少しだけ優しく感じた。居間のソファに坐ると、三輪はコーヒーまで淹れてくれた。俺を許す気になったのだろうか。
「ちがう、俺、謝りに来たんじゃない。う…いや、もちろん謝る。ごめん、ごめんなさい」
 でも俺が本当に伝えたいのは謝罪じゃない。
「風邪、ひかなかったか?」
「ひいたよ。すっげー熱出た。昨日まで寝てたんだから」
 気にかけてもらえたことに力を得て、勢い込んで答えると、三輪は微妙に視線を逸らした。そんな些細なことで奈落に落ちたみたいな感覚で胸が痛くなった。
「俺、俺ね、三輪さんが好きだよ」
 口にした途端ぼたぼたと涙がこぼれ落ちた。三輪が驚いた表情で俺を見た。
「俺、三輪さんのこと、マジで好きだ。どうしようもないくらい好き。だから、だから、俺のこと好きになってほしい。三輪さんに俺とつき合ってほし…、ふっ…」
 嗚咽を堪えようとしてむせてしまった。
「う、げほっ、俺、三輪さんとつき合いたい。な、頼む…っ、から、俺のものになって」
「何を言い出すんだ?」
 三輪は困惑して眉をひそめた。そんな顔をされたことに傷ついて涙が止まらない。
「だ…って、俺、苦しくってダメなんだ。なんでもするよ。み、三輪さんとっ、つき合うためなら、なんでもするっ」
 完全に泣き落としだ。頭の片隅では自分の情けなさを自覚していたが、今さら止めることもできない。
「なんでも?」
 しかめ面のまま問う三輪に叫ぶようにして頷いた。
「なんでもするよ! 本当になんでもする。三輪さんが俺とつき合ってくれるんなら、なんでも…」
「おまえ、俺を試しているのか?」
 しゃくりあげながらくり返していたら、急にぐいっと衿元をつかまれた。ひどく怖い顔で三輪が覗き込んでくる。
「何?」
 間近く引き寄せられたまま、わけがわからずに問い返した。
「俺の理性を試してるんじゃないのか?」
 鼻が触れ合うような距離。俺は三輪が何を言っているのか考える余裕さえなくしがみついた。
「好きだよお」
 この想いだけはわかってほしいという気持ちで唇を押しつけた。差し込もうとした舌を押し戻され、逆に俺の口内に三輪の舌が入ってきた。そのまま蹂躙するように口の中で暴れ回る。息ができない。
「なんでもすると言ったな」
 唇を離して、三輪が囁いた。ようやく息がつけて喘ぎながらも俺は必死で答えた。
「するよ。三輪さんが俺のものになるんなら、なんだってしてやる」
 だから俺の想いを受け入れてほしい。
「じゃあ抱かせろ」
 思いもかけないことを言われて一瞬硬直した。
「え?」
「俺はゲイじゃない。俺とつき合うなら女の代わりにならなきゃダメだ」
 女の代わり、代わりって言うのはつまり…? 三輪のモノを突っ込まれるってことか。え、ゲイじゃないって、あれ、でも、俺を女の代わりに抱くってことは、俺の尻に入れる気じゃないのか。それってゲイのすることなんじゃ…?
「え、え? それは、ちょっと待って。あの、ちょっとそれは、よく考える、考えるから」
 俺は混乱して三輪から身を離そうとした。三輪の手がしっかりと腕をつかんでいた。
「今さら遅い。おまえが誘ったんだろう。そんなふうに泣いてみせて、おまえはいつだって俺を試してたんだ」
「ま、待って。考えさせて」
 三輪のってそれなりの大きさがあって、そんなの尻に入るんだろうか。ていうか、あそこに突っ込まれたら普通は痛いだろう。痛いのは怖かった。
「あの、俺、ちゃんと考えてなくて。ごめん、あの…、俺…、俺…、痛いのは、嫌だ!!」
 しどろもどろに言いかけた俺は、少しも緩まない三輪の力に、とうとう悲鳴をあげてしまった。
「痛いの嫌なんだよ!」
 必死になって押しのけようとあがく俺を三輪はしっかりと抱え込んでいた。
「バカ」
 呆れたように見つめてくる。
「おまえ、つき合うってどういうつもりだったんだ?」
「わかんないよ! わかんないじゃんか。ただ好きなんだから。俺、三輪さんが好きだ」
「バカ。おまえが悪いんだ」
 三輪は苦しげに吐き出し、俺のシャツに手をかけた。
「や、やめろ。ちが、ちがうよ。それ、ちがう!」
 身をよじる俺から容赦なく服を剥ぎ取っていく。三輪を好きだと自覚している俺には、強く抵抗する力は出なかった。あっという間に全裸にされた俺の身体中を三輪の手と唇が這う。俺は「ちがう、ちがう」と呟きながらも、三輪に触れたくて、彼の服を脱がした。何一つ遮るものなく肌と肌を合わせたい。三輪のモノも俺のモノもすっかり形を変えていた。先日の刺激をなぞるように俺は腰を押しつけた。昂ぶった熱を擦りつけ合うことに夢中になっていた俺の後ろに、三輪の指がためらいなく入り込んできた。
「あ!」
 慌てて逃げようとしたが遅かった。しっかりと入ってしまった指が引き抜けない。
「ちがっ、それは…」
 抗議する言葉を三輪は舌で封じた。閉じられない口から溢れた唾液をもう一方の手に受けて腰のほうに持っていった。唇を下にずらしていき胸に這わせながら、俺を抱え込むようにして、三輪は唾液で濡れた両手の指を一本ずつ俺の中に入れてしまう。
「やだあッ」
 広げるように動かされる指がたまらない。
「い…や、だ。それはいやだよ…っ」
 たいして痛みはなかったが、純粋に未知への恐怖を感じていた。震える手で三輪の手首をつかんだが、三輪はやめてくれなかった。指が引き抜かれた後に押し当てられた熱。
「やだっ、怖い!」
 叫ぶ俺の口に三輪の右手が入れられた。
「噛んでいいから」
 素早く囁き、三輪は腰を進めてきた。
「ふ…、ぅああああぁ」
 口にある三輪の手に歯を立てるのをためらい、力を抜くしかない俺の中に三輪のモノが容赦なく押し入ってくる。
「ぅぐ…っ、んん、ひ…あ」
 口を開けたまま喉を鳴らして俺はうめいた。痛みより何よりとにかく苦しい。馴染みようのない異物感。全部入り切ったらしく、三輪は俺の口から右手を離した。そのまま両手で俺の肩を押さえつけ、繋がった腰を揺すり上げた。
「あ、あああ…ダメッ、やだ」
 内側から刺激されるなんてことはもちろん初めてだった。身体の奥に熱がこもる。
「ぅん…っ、怖いッ、俺、俺…あ…怖いよぉっ」
 その熱さに耐え切れない。俺は三輪の身体に手を回してしがみついた。
「三輪、三輪さ…んっ、好き、好きだ…っ、ふ…っ、好き」
 呪文のようにくり返し唱える。今の俺がすがることのできる唯一の想い。三輪のモノが中を突く度に、俺のモノにまで刺激が伝わる。意志に関係なく三輪を締めつけていた。
「あ、あっ…つ、んっ」
 あせったような声とともに三輪のモノが膨れ上がり、俺の中に熱が噴きつけられた。
「は…ああああぁ」
 背をのけぞらせた俺は涙と同時に欲情を迸らせた。



 俺はハアハアと荒い息を吐いて仰向けに横たわっていた。起き上がった三輪は濡らしたタオルを持ってくると俺の下肢を拭き始めたが、俺はまだ動けなかった。だらだらと頬を伝う涙がいつまでも止まらない。
「ごめん、悪かった」
 二本目のタオルで顔を拭ってくれながら、三輪は言った。
「責任は取るよ。無理やりしたんだから、警察に行く覚悟はある」
「な…に、言ってんだよ?」
 あんまりな三輪の言い種に俺はようやく身体を起こした。
「ふざけんな。そんな責任の取り方があるかよ? ちがうだろ、好きだって言った相手を抱いたんだから、別の責任取れよ」
 しがみつくようにして言っていた。
「…それ、ほとんど脅迫だぞ」
 呆れたような三輪の言葉に唇をとがらせる。
「いいんだ。脅迫でもなんでもいい。俺はあんたが欲しいんだよ。そのためには脅しでも泣き落としでもなんでもするから」
 三輪は指で俺の前髪をかきあげ、額をつけて囁いた。
「俺とつき合うってことは、また抱くぞ」
 俺はぐっとつまり、への字に口を曲げて三輪を見た。
「痛いの、やだ」
 三輪は心底呆れたという表情を作り、大げさなため息をついて肩をすくめた。
「つき合うかつき合わないか、決めるのは亮介だな」
「…くそ意地悪おやじ」
 悪態をつきながら俺は、初めて三輪に名前を呼ばれたことに気づいていた。



END





homeの20001番を踏んでくださったあお様のリクエスト。年の差で情けない受。情けないというよりは性格の悪い受? もう少し長く書けそうな気もするので、機会があれば書き直すかも。リクエストをいただかなかったら絶対書くことはなかった話でした。本当にありがとう。2001.09.3




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