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「なあ、セックスしない?」
ベッドにうつ伏せに寝転がって児童書を読んでいた俺は、すぐには言われた台詞を理解できなかった。本の中の物語はいよいよ佳境へとさしかかり、現実世界に注意を払う余裕なんかありはしない。 背中にのしかかられて、本を抱えたままゴロンと向きを変えて振り払った。 「ちょっと待ってろ。あと少しで読み終わるんだから邪魔すんな」 「うん」 この部屋の――つまりこのベッドの本来の主である春日はおとなしく俺から離れて、床にあぐらをかいた。一緒に対戦ゲームをしていた大森がバイトに行ってしまったので急に手持ち無沙汰になったんだろう。 淋しがり屋の春日のアパートはいろんな奴らの溜まり場だった。俺なんか自分の部屋にクーラーがないから夏はほとんど入り浸りだ。春日はお気楽なお坊ちゃんで、一日中クーラーをかけている。 さっきまではゲームの効果音とともに突発的に上がる春日と大森のわめき声がBGMになっていて度々「くそうるせー」と文句をつけながら読書にいそしんでいた俺だ。あんまり静か過ぎても少し気になってきた。 「これ、マジで面白いよ。次、春日も読む?」 目は活字を追いながら、お愛想で声をかければ、素直に「ああ」と返事が返ってくる。俺はチラッと笑ってしまった。いい奴なんだよな。俺は春日に出会うまでこんなに気が合う奴がいるなんて想像したこともなかった。今までの友人たちとはどんなに仲がよくたって、三日も一緒にいれば絶対ケンカになった。俺の気性が荒いとかそんなことはともかくとして、春日とは本当にうまくいっている。 春日とはバイトで知り合ってもう一年以上経つ。第一印象は「うわ、軽薄そうな奴」だった。今では金髪にまで進化したが、当時の春日は普通の茶髪で、耳――それも耳たぶじゃなくて上の方に3つもピアスをつけていた。いつでもヘラヘラ笑っているから少し足りない奴だと思っていた。驚くことに実は有名大学に在籍している。 ――俺、小田の大学落ちたんだよ 去年の暑気払いで春日は言った。俺がバイトを始めて一ヶ月くらい経った頃のことで、その頃には俺たちはずいぶん仲良くなっていた。 ――すっげー残念。受かってれば俺たち同じ大学だったかもしんねー ――んなわけあるか。そっちが第一志望だったくせに 順当に春日の大学を落ちた身としては面白くない。 ――でもさ、俺はそっち落ちたんだもん。あー、俺、小田とおんなじガッコ行きたかったな ――二人、すごく仲いいよね からかいの言葉に春日は大真面目に頷いた。 ――そうだよー。俺、小田のこと大好きだもん。小田が女だったら付き合いたいと思うもん その場には春日と付き合い始めたばかりのマユちゃんがいたので、俺は妙にあせってしまった。 ――バカか。俺が女だったら春日なんかと付き合うか。マユちゃんは奇特だよ テーブルの向かいに坐ったマユちゃんはただニコニコと笑っていた。 ――冷たいこと言うなよ。じゃ、俺が女でもいいし ――げー、やなこった。春日みたいな女はますます願い下げ 春日は女の子にもてる。それが最初は意外だった。友だちとしては最高だけれど、あんまり女の子にはもてそうにないと思っていたからだ。春日の良さがわかるのは男同士だからだと信じていた。女の子たちの間での春日の人気を知った時には、女の子って意外と見る目を持っているものだと感心してしまった。 「終わったー。さっすがベストセラーだけあるよ、これ」 ようやく児童書を読み終えた俺は、表紙をもう一度眺めてから春日に手渡した。そのまま勢いをつけて起き上がり、ベッドに腰掛けた。春日が何か言いかけてたのを忘れたわけじゃない。 「で、なんだって?」 春日は上唇を舐めてコホンと咳払いした。 「あのさ、小田、俺とセックスしてくんない?」 「…はい?」 訊き返した俺はきっと自分でも相当間抜けな表情だったと思う。春日は何を言い出したんだ? 春日は確かに頭がいいんだろう。時々話が飛躍しすぎて凡庸な俺にはついていくことが難しい。 「なんか俺、小田がユリカちゃんと付き合い始めてからモヤモヤしてんだよ。なんかやなんだ」 ユリカはつい最近付き合い始めたばかりの俺のガールフレンドだ。俺が黙って見つめていると、春日は俯いて床に敷いてあるラグをむしり始めた。 「別にユリカちゃんが嫌なんじゃないよ。あの子イイコだと思うし、小田とお似合いだと思う。絶対オススメ」 そりゃーユリカは、春日の彼女であるマユちゃんの友だちだもんな。元々紹介したのはおまえだろうが。 「小田、まだユリカちゃんとエッチしてないって言ってたよね?」 そうだよ。俺がこの夏に勝負かけるっつったら「がんばれ」ってハッパかけたの、春日じゃん。俺は呆れてその先を促した。 「だから?」 「だから、その前に俺としよ」 いや、それは「だから」で繋がらないと思うが。もしかしてやり方教えてやるとかいうつもりなんだろうか。 「あのさー、俺、別に童貞じゃないぜ?」 言わなかったっけ? 飲んだ時に初体験話とかした覚えあんだけどな。春日に教えてもらう必要なんかない。 「だからッ、俺と会う前の話はいいんだよ。それはしょうがないじゃん?」 春日と出会う前のことはしょうがないって、それはどういう意味なのでしょうか。意味の通じない論法に頷くこともできない。 「でも、俺がいるのに、小田が俺を忘れて女の子とそういうことするって考えたら、すっげーやだ」 「…おまえ、ホモ?」 おそるおそる確認したら、春日は速攻でブンブンと勢いよく首を振った。 「ちっがーよ! だから、まあ、小田のこと好きなんは、恋愛じゃないよ。恋愛じゃないけどー、でも恋愛に負けんのも嫌なんだよな」 俺は左手の爪を順番に噛みながら黙ってその主張を聞いていた。この部屋のクーラーの調子、いまいちじゃないか? さっきまで効き過ぎだと感じていたのに。なんだか少し汗ばんできた。 「俺、マユと寝てる時は、あいつのことしか考えてないんだよ。小田のこと、全然考えない」 「…」 「だから、小田もユリカちゃんとしたら俺のことなんか考えないよ」 普通はエッチしてる時に友だちのことなんか考えない。萎えてしまいそうじゃないか。俺はベッドの縁に左足をあげて膝を抱え込んだ。 「やなんだ、俺」 下から見上げる得意の表情。唇を噛んで子どもみたいに。 「俺はいつでも小田の一番でいたい」 こいつがここまでわがままな態度を見せるのは俺にだけだ。甘やかせるのは俺だけだ。ヘラヘラしてる春日は本当は周りに気を使う奴で、だから俺だけには何も飾らないでくれるのがいつも単純に誇らしかった。俺は春日の特別なんだ。 「だからセックスしよう」 春日は顔を上げて真っ直ぐな目で俺を見つめた。磁石のN極とS極が引き合うようにぴたりと視線が合った。 「おまえ、言ってることむちゃくちゃだよ」 こんなに心臓がドキドキしてるのに、俺は平静な声を出せるんだ。 「わかってんだけどさ」 春日は苦笑い。 わかってんだけど、俺にはむちゃくちゃなまま言っちゃうんだ。整理してから伝えようなんて気は遣わなくて、思いついたこと垂れ流してんだ。こんなのが嬉しいなんて俺もどうかしてる。 「俺はー、いつでも春日が一番だと思ってるよ。俺、本当、気ぃ短くてすぐ切れるから、おまえくらいしか友だちいねえもん」 滅多に口にしないけれど、それは俺の本音だ。普通の友だちなら適当にいるけれど親友は春日だけだ。 「でも、ユリカちゃんと付き合っていくうちに、変わっていくかもしれないじゃん?」 それはもちろん付き合っているからには俺はユリカを大切に思っている。 「ユリカとおまえはちがうだろ」 「それでも! それでも、俺には小田が一番だし、おまえの一番でいたいし」 「でも春日はマユちゃんが好きなんだろ?」 マユちゃんはすごく可愛い女の子だ。本当は俺だっていいなと思ってたんだ。だけど、春日が好きだって言ったから黙って身を引いた。マユちゃんの話をする春日は本当に嬉しそうだから、俺も遠慮した甲斐があったと思っていたのに。 俺の言葉に春日は素直に頷いた。 「好き。うん、マユは好きだけど…小田はちがうじゃん?」 ちがうんだから、俺たちはセックスなんかする必要はない。 「春日の言ってること、わかんねえよ」 本当は伝わってしまった。飛躍ばっかりで矛盾ばっかりで全然論理的じゃないのに、理屈じゃなくて、春日の言いたいことが俺に伝わってしまっていた。 多分俺も同じように考えているから。 俺だってマユちゃんに全然嫉妬しないと言ったら嘘になる。俺たちの関係とガールフレンドとは別だって頭では納得しているつもりだ。だけど、さっきの春日の台詞。マユちゃんと寝てる時は俺のこと考えない、か。無意識なんだろうけど、どうしてそう煽るようなこと言うんだろうな。 「…で、どっちが下になんの?」 人差し指の爪に歯をひっかけたまま、俺は訊ねた。春日は「う」と一瞬つまった後で情けない顔で提案してきた。 「ジャンケンする?」 エッチのスタートがジャンケンだなんて、あんまりじゃないか? まあ、別にロマンティックな動機があるわけじゃないんだから仕方ないかもしれないけれど。 能天気に「ジャーン、ケン」と拳を振り出した春日を、俺は片手をあげて制止した。 「いや、せめて俺に選ばせろ」 そう言ったものの、どっちがマシかなんて答えは簡単には出そうになかった。 男同士でやるってことは、つまりアレだろ。尻に入れるんだ。入れるのも入れられるのも正直カンベンしてくれって感じなんだけど。 俺の大切なムスコをいっくら春日のだって男の尻になんか入れるのは嫌だ。マジで怖い。俺はホモじゃない。くそー、バカ春日。なんてこと考え出すんだ。オアズケされた犬みたいに真っ直ぐな目で人の顔を凝視してやがって。 頭をかきむしりながら視線を泳がす俺の目に、テレビの上のプラモデルが映った。 春日はプラモデルが趣味なんだ。奴の作ったプラモデルは本当にキレイだ。普段の行動からは想像つかないくらい器用な指先をしている。反対に俺はものすごく不器用だ。こいつの作ったプラモデルだって、今までに三つばかり壊しているから今じゃ絶対に触らせてもらえない。俺が春日を抱くとしたらこいつのことを壊しちまうんじゃないか。春日は華奢だしな。大食いのくせにやたら細い身体をしている。下手な扱いして怪我とかさせたくない。それは避けたい。何より避けたい。 「やっぱ、俺、下になるわ。でも痛くすんなよな。ちゃんと気持ちよくさせなきゃ許さねえ」 ほとんど投げやりな気分で提案すると、春日はびくっと反応した。 「お、おう。任せろ」 「こら、てめえ、返事が一瞬遅れてんだよ。マジでこえーんだからな。任せろっつったからには責任取れよ」 せいぜい悪態をついてなきゃやってられねえ。心臓が張り裂けちまうんじゃないかってくらい緊張してる。 俺は覚悟を決めてTシャツを脱ぎ捨てた。今さらここでためらって何になる。 「ほら、春日、さっさと来い」 ベッドの上、大の字になって呼び寄せる俺に色気はおそらくゼロ。仕方ないよな、俺は男だし、春日相手に色気を出せってほうが無理だ。 「キスしていい?」 いちいちお伺いを立ててくる春日は本当のバカだ。仕方ないからこっちから引き寄せて口づけてやった。チュ、なんて犬を相手にしてるのと同じだ。俺に覆い被さった春日のツラはちょっと泣きそうに見えた。 「俺さー、本当に小田のこと、大好きなんだよ」 この期に及んでまだ言うか。 「俺も好きだっつーの。じゃなきゃやらせるか」 目に見えない気持ちには測量計がないから不安になる。俺がこれだけ好きだって言ってやっても、春日にはうまく伝わらないんだな。春日の好意を俺はちゃんと感じているつもりなのに、こいつは自分の気持ちが通じてないとでも考えているんだろうか。 もしもの話、春日が何かとんでもない悪事を仕出かすことがあったとしても、俺はこいつを信じるだろう。例えば世界中を敵に回しても俺は春日の側につく。そこまでいったらマユちゃんもユリカも関係ない。 角度を変えて何度も口づける。舌を絡めてみるけれど、なかなか色っぽい感じにはならない。 別に抱き合うのは初めてじゃない。春日は酔うたびにひっつき魔になるから。夏の海とか温泉に行った時とか裸で触れたことだって何度もある。 そんなことを考えたらちゃんと勃つんだろうかと心配になってきた。ま、いいか。俺は下だから勃たなくてもいいんだ。女の子相手にするより気楽かもしれない。がんばれ、春日。 無責任な気分は、ソコに春日の指を突っ込まれるまでだった。 四つん這いになった俺にチューブ入りの軟膏を塗りたくりながら強引に入れてきた。そんなところに軟膏を塗られるのはひたすら気持ちが悪かった。「いい?」と確認されて、しかめ面のまま頷くとゆっくりと春日の指が侵入してくるのを感じた。 俺、春日の指はもっと細いと思っていたんだけど。ちっこいプラモデルを組み立てて見せる春日は、不器用な俺からしたら魔法みたいな指を持っていた。でも中に入れられた指は全然細いと感じられない。これだけでかなりキツイ。嫌な予感がしてきたぞ。ここで「イヤだ」と言ったらマズイかなあ。 いつの間にか俺は口だけで息をしていた。顔の下にある枕が湿っている。ヘンに力を入れているのか、だんだん肩が凝ってきた。 中まで塗りこめられた軟膏のせいでヌルヌルになって気持ち悪さも最高潮じゃないかというところまできてようやく春日の指示がきた。 「腰、もうちょっと上げて」 ひどく情けない気分だった。 「いくよ」 ピタッと押し当てられたもの。ああ、こいつ、ちゃんと勃ってんだ。竦みそうになる身体に必死で深呼吸をくり返した。俺、子どもの頃から予防接種とか大嫌いだったんだよ。 「あ、あああッ」 痛い、いたい、イタイ。これじゃまるっきり串刺しの刑だ。入るはずのないモンを無理やり押し込まれてるんだ。 「お、小田…もうちょっと緩めて」 春日が切羽つまったような声をかけてきた。ゆ、緩めるって、どうやるんだよ? 勝手なこと言ってんじゃねえ。 「バッカ…たれ、春日ッ。う…うう」 これで俺が死んだらどうするつもりだ。阿呆、あほう、アホウ。本気でバカなこと思いつきやがって。俺がいなくなったらちゃんと泣くんだろうな。てめえがヤり殺すんだから、シャレにならねえぞ。 バカの春日は戻るということを知らないらしい。無理だっつーのに全然やめようとしないで強引に身体を進めてくる。 「イ…ッ。あああッ」 動物か、俺は。でも、もうヤダ。ヤダヤダヤダ。誰か助けて。どうしてこんなことしてんだ。なんでこんなこと始めたんだ。 「だ、だいじょぶ?」 声の調子と行動とが一致してないんだよ。そんなオロオロしたような声でごまかしてるんじゃねえ。 「…だ…いじょッぶな、わけ…アアッ」 言葉の途中でさらに押し込まれて、ングッて蛙みたいに咽喉が鳴った。 「入った、みたい」 「…」 俺はゼェゼェと肩で息をしていた。 「どうしよう?」 無神経な言葉に切れそうになった。 「てめえ、殺す」 「いきなりヒドイこと言うなよ」 「ど…うしようって、て…め、クソバカ」 考えなしにも程があんだよ。こんなの中に突っ込んどいて「どうしよう」ってなんだよ。ちゃんとどうにかしろよ。 「動くよ」 返事のしようもないことをわざわざ訊くんじゃねー! 俺の内心の叫びに気づきもしない春日はしつこく確認してきた。 「いい?」 「…他にっ、どうしようってんだよ?」 ああくそ。怒鳴ったら涙が出た。このままずっと繋がっているわけにいくか。ああ、もう本当にどうにかしてくれ。俺ん中にてめえのが入ってんだぞ。 「イッテー!」 春日が動いたとたん俺は絶叫していた。 「動くなッ! 切れる。マジでいてーよ」 「さっさと抜け」と言いたいけれど、これじゃ抜かれるのも痛いにきまってる。 「どうすんの?」 顔を伏せた枕の端を噛んで耐える俺の頭の上から無神経な言葉が降ってくる。 「ヤダ、もう俺ほんとヤダ。どうすんのって、どうすんだよ。これ、俺…もう、ホントどうすんだよ」 なんかしゃべってないと気が狂いそうだ。尻というかほとんど腹の中に近いところがジンジンしてる。 頭の下あたりを春日の手が撫でるのを感じた。 「ちょっと我慢してて」 低く囁いた後、春日は意を決したように突き上げてきた。 「やッ、め…ろ、て…ッ。あ、ああ、いッ」 抜き差しできないからか、さらに奥に押し込まれているような気がする。 「苦し…ッ」 「こっちもキツイんだ」 だから誰がこんなこと始めたんだ。 「ンン…ッ」 こいつ、こいつ、こいつ。絶対感じてる。くそー、俺がこんな痛い思いをしているのに、中のヤツはさっきよりでかくなってる気がするぞ。首筋にかかる息だって荒くなって湿ってきてる。 「ああ…」 このヤロー。とうとう声を洩らしやがった。失敗だ、失敗。やっぱ俺が上になるべきだった。春日のわがままで始まったのに、なんで俺だけがこんな目に。 「ん…ッ、ん…ッ、ん…ッ」 喘いでるわけじゃない。断じてない。もう何がなんだかわからない。 無理やり揺すられているうちに少しずつ中が濡れてきたような気がする。気のせい…じゃないよな。春日の先走りか。少し楽になってきたかも。できればこのまま抜いてほしい。 「か、春日…」 「小田ァ」 いやちがう。甘い声で応える場面じゃないんだ。じゃないんだけど。くそー、そっちは結構気持ちよさそうだな。俺、そっちがよかった。 「アッ!」 ついてるモンの裏側辺りをこすられて、いきなり電気が走るような刺激がきた。 「小田…?」 不審そうに動きを止めたのは一瞬で、春日はそこばかりを責めてきた。 「や、やあァ…」 「やめろ」と制止しようとするが言葉にならない。 「アッ、アッ」 「気持ちいい?」 バカ、こんなの気持ちいいって言うもんか。死んじまう。本気で俺、春日に殺される。 頭が真っ白になりかけたその時、突然短く声を上げて春日が果てた。中に熱いものがじんわりと拡がるような感覚があった。 「はあぁ」 ずるりと抜かれたその感触だけは、気持ちよかったと断言してやる。ウンコだ、ウンコ。ようやく排泄できてスッキリってやつだ。 すぐに仰向けにひっくり返されて、涙と鼻水でぐちょぐちょのはずの顔を「見るんじゃねえ、無神経野郎」と罵ろうとしたら、至近距離にあったのは、目を閉じた春日の顔だった。そのまま近づいてきて唇が触れる。 お手軽なんだよ。むかつく。イったてめえはいいけど、俺のはまだ…。 「わっ、わー、ちょ、春日!」 頭を下げた春日にレロッて先っぽを舐められて非常にびびった。俺のあせり声にチラッと顔を上げて春日は宣った。 「俺ばっかりじゃ、やっぱマズイと思うし」 「いや、いいんだ」 それよりシャワーを使わせろ。自分で始末させてくれ。 春日は俺の言葉を無視してまるっきり俺のものを咥え込んだ。 「いい…ッ」 ちがう、ちがう、ちがう。イイ、んじゃなくて、そんなことしなくていいんだ。 「あ…っ、はぁ」 俺は口でされるのに弱い。めちゃくちゃ弱い。終わった後で「カワイー」なんてブチ切れそうな台詞を言われたことさえあるんだよ。 「んんっ」 どうしてか声が抑えられないんだ。あれか、一方的にされている感じがするからか。 「あ、あ」 シーツ握りしめて女みたいなんじゃねえか…って、女はコレ持ってないっつーの。春日、春日、おまえ巧すぎ。 「ぅんッ」 も、ダメだってところでいきなり春日が離れた。 「あ…?」 いや、ここで恨みがましい目になったのは仕方ないだろう? つか、もうイくんだよ。ここまできてそれはない。 春日は潤んだ目で俺の顔を覗き込んできて呟いた。 「小田の声ヤバイんだ。俺、また…」 うわ、春日の奴、また勃ってんじゃねえか。 「も一回」 ちょーっと待て! もう一回なんだってんだ? 春日は俺の足を抱え上げた。 「あ、あああ」 正面からッ! 正面から突っ込んできやがった。バカバカバカ。一度入れられてた後だから一回目に較べたらまるで抵抗もなく飲み込んでいく自分の身体がそら恐ろしい。 きっちり繋がったところで、上から見下ろす春日がやたら誠意に満ちた表情で宣言してきた。 「今度はちゃんと小田をイかせるまでがんばるから」 がんばる必要なんかなーい! 胸の内で叫んでも声が出せない。入れられているのは尻なのに、咽喉元まで何かがつまっているように、言葉がしゃべれなくなるのは何故なんだ。 「ヒィッ」 最初っからそこを直撃されて、すでに張りつめていた俺のものから、あっけないほど簡単にドロッと何かがこぼれた。これ、イったってことか? なんかヘンだ。中に入れられたままのせいかイったはずなのに熱が冷めない。春日はゆっくりと腰を使い出した。そこをこすられるたびに前からトロトロと溢れてくるものがある。 「ア…ッ、ア、ア」 確かに春日は頭がいい。学習能力がある。器用だ。それはよくわかった。十分わかった。わかったからもうやめてくれ。頭の芯が熱をもって痺れ始めていた。 「ン…ッ、んう」 ちくしょう。俺、猫みたいな声出してないか? 春日の動きに合わせて鼻を鳴らしてしまう。足を抱え上げられてヨガのポーズ作ってるみたいになってて非常に苦しいんだけど。 「ン…、ン…、ン…」 「小田ァ…いい? なあ、いい?」 いや、もう俺、イった、イったんだから、やめ…ろ…、春日…―――。 「小田、小田…?」 失神していたのはどのくらいの時間だったんだろう。頬をピタピタ叩かれて意識が戻ってきた。ぼんやり目を開ければ間近に覗き込んでいる春日の心配そうな顔。 「ゴホ、ゴホゴホゴホ」 照れ隠しに盛大に咳き込みながら俺は身体の向きを変え、枕に顔をうずめて隠した。 アホッタレの春日は「大丈夫?」と肩に手をかけてくる。俺は枕を抱えたまま頷いた。本当は大丈夫なんかじゃない。なんてメに遭ったんだろう。後ろに突っ込まれて昇天するなんて男としてのプライドがズタズタだ。相手が春日でなければ絶対殺すしかない。 「なあ、小田。こっち向いて。怒ってんの?」 「別に。ちがうよ」 わかってねーな。俺は春日の方に向き直った。大サービスでキスなんかかましてやる。ついでに頭も撫でとくか。金髪って触り心地はよくないな。 「俺、けっこう感動しちゃった」 「へへへ」と笑う春日の目元が赤いのは、もしかしてこいつも泣いたとか? 「ようやく気持ちに行為が追いついた感じ」 「ああ?」 「俺さ、本当に小田のこと大好きで、だけど、女の子と付き合うのとはちがうじゃん? 大好きって、どうしていいかわかんなかったんだ。ずっとモヤモヤしてた。ようやく形にできた気がすんだよ。なあ、これからも恋愛じゃなくっても俺たちセックスしよう」 こいつがもし女の子だったら俺はこんなバカとは付き合えない。だからこれは恋愛感情じゃない。だけどこんなバカが俺にはひどく愛しかった。 「…次はてめえが下だ」 目の前にあるハチミツ頭をバチンと叩いてやったら春日は「うん」と神妙に頷いた。 |
頭にあったのは、友情と恋愛の狭間の切ないエロ。で、書きあがったらコレでした。…そうです。書いた奴の品性の問題です(涙)。20020208UP |
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