夏の扉新聞はどこだと見回したら、寝転んで雑誌を読んでいる原田の向こう側にあった。取ってくれと頼もうかと思ったが、原田はずいぶん熱心に雑誌の記事に目を走らせているみたいだから遠慮して、俺は足を伸ばした。新聞を足の指でつかんで引き寄せる。自慢じゃないが、俺は器用なんだ。気配を感じたらしい原田は「ん?」と顔をあげかけて、つかの間視線を止めた。そこでややぼんやりしていると思ったらすぐにギョッとした表情になり、慌てて起き上がって大声で叫び出した。 「み、みみみ宮越! お、おま…おまえっ! な、な、何すんだよっ」 俺は原田のその勢いに少しびびって、へラッとごまかすように笑った。 「悪い。新聞読みたかったんだけど、原田の邪魔しちゃ悪いかなーって、自分で取ろうと思ったんだ」 「だったら手を使えよ! 足、足広げて、バカ!」 原田は真っ赤な顔で両腕を振り回していた。 「んだよ、いちいちうるせーな」 寝ながら雑誌を読むような奴に行儀指導なんかされたくないね。 「見えたんだよ!」 原田は怒鳴った。 「は? ……ああ、ちんぽ?」 態勢を考えてわりとすぐに見当がついた。そっか、トランクスだからな。夏は暑いから、ピッチリしたのは穿きたくないんだ。足を広げたので、俺の息子さんが原田の目の前に少しばかり顔を出してしまったらしい。俺は一応謝った。 「それは失礼」 「このバカ!」 怒鳴りつけて原田はトイレに駆け込んでいった。 「どうした原田?」 「大げさだなー。吐いてんじゃねーの?」 酒井に応える田村の言葉に力を得て、俺はつけ加えた。 「あっちのが失礼じゃん」 「いや、面前に披露するほうもかなり」 味方かと思った田村はあっさり寝返った。 「顔をあげると思わなかったんだよ」 唇を尖らせる俺に、酒井は呆れたように首を振った。 「あげなくたって同じだろう」 トイレに篭城した原田はいつまで経っても出てこなかった。 「あいつ、何やってんだよ。そろそろバイト行かないとマズイのに」 酒井が舌打ちして立ち上がった。酒井と原田は、夕方からバイトが入っていて、それまでの時間つぶしに俺の部屋に来ていたのだ。ちなみにそのバイト先は俺のアパートから目と鼻の先の通りにあるコンビニで、俺と田村も同じところでバイトをしているバイト仲間だった。 「原田ー。おまえ、いい加減出てこい。宮越も謝ってるぞ」 勝手に謝ってることにされて、そんな大げさな話か、と顔をそむけた俺は、酒井にトイレのドアに押し付けられて、しぶしぶ口を開いた。 「ごめんてば、原田。バイトの時間、過ぎちまうぞ」 中からの応答はまったくなかった。 「原田、おーい。悪かったってば。──出てこねーよ」 何度かノックした後で肩をすくめて振り返ったら、酒井は渋い顔で田村に声をかけた。 「田村、おまえ代わりに行こう」 「んだよ、それ」 田村は唇をとがらせたが、押しの強さは田村より酒井が上だ。 「文句は後で原田にたっぷり言ってやれ」 酒井に言いくるめられた田村が連れ立ってバイトに行ってしまい、残されたのは俺と篭城中の原田。勝手にしろ、と閉まったドアに毒づいて、原田の放り出した雑誌を眺めていた俺だったが、じきにトイレに行きたくなってしまった。 「原田、俺、ションベンしたい」 訴えてもドアの向こうは沈黙したままウンともスンとも言わない。 「原田、原田、頼むよ」 返事のないドアをノックする。 「頼む、出てきてくれ。俺、悪かったから。なー、そこ俺んちのトイレなんだから。漏れちゃうってば! 原田! 俺、漏らしちまうぞ! 原田ッ!!」 だんだん切羽詰ってきて、やけくそで怒鳴り始めて、ようやく鍵の開けられる音が聞こえた。 ドアを開けて出てきた原田の目は真っ赤になっていた。 「おまえ、何泣いてんの?」 肩に手をかけて覗き込んだ俺の頬を、原田はいきなり平手で張った。バッチーンと派手な音がして俺はひっくり返った。痛みよりもその音に驚いた。 「アホンダラ! てめえのせいだ!」 叫び、原田はアパートを出て行った。俺は床にひっくり返ったまま呆然とそれを見送った。 「原田がバイト辞めるって言ってんだよ」 俺を張り倒して出て行った日から原田は引き篭もり状態に入っているらしい。酒井と田村が俺の部屋にやって来てそう告げた。 「宮越、責任取って、原田を説得してこいよ」 「はあ? 何それ。全然意味わかんね」 酒井の言い掛かりに俺は呆れて返した。俺のムスコさんとの対面と原田のバイトとどういう関連があるのか不明なんだよ。手加減なしに平手打ちされた俺のほうが被害者だ。だいたい原田がバイト辞めるからって、どうして引き止める必要があるんだかわからない。 「さやかちゃんが、原田にバイト辞めてほしくないんだと」 酒井は、ムスッとした顔で言った。さやかちゃんというのはバイト仲間で、入ってきた当初から酒井が狙っている女子高生だ。努力の甲斐あってかなり仲良くなってきたところのはずなのに、肝心の彼女が原田狙いと知ったんじゃショックだろう。 「俺は谷山さんに頼まれた」 同じく憮然とした表情で田村がつけ加える。谷山さんはたしか田村と同じ学校だ。原田のヤロウ、ずいぶんもててるんじゃねーか。 「バカじゃん、おまえら。そんなんだったら原田にバイト辞めてもらったほうがいいんだろ」 せっかく取り除けそうな障害物をあえて自ら呼び戻そうとする酒井たちの意図が俺には不明だ。 「そういうわけにはいかない」 酒井と田村は双子のように揃ってかぶりを振った。 「それじゃ俺たちがせこい男だと思われるだろ」 「せこくたっていいだろ。そういうとこで見栄張ってるから彼女できないんだよ、バーカ」 それこそうまく丸め込むチャンスじゃねーか。バカ正直にお使いに来るなんて、甲斐性ナシ! 俺の言葉に、酒井たちは恨みがましい目を向けてきた。 「俺たちは宮越とはちがう。遊びで女の子と付き合いたくないんだ」 「だっれが! いつ俺が遊びで女と付き合ったよ?」 まったく身に覚えのない話だった。暑さに幻覚でも起こしたか。 「毎回そうじゃんか。いっつもすぐ別れるくせにえらそうに言える立場かよ」 「宮越のそういうデリカシーのなさが原田を怒らせたんだろ」 「ちゃんと原田に謝ってこいよ」 話が全然ちがうだろー! むちゃくちゃな論法に俺はおおいに呆れたが、二対一では俺に勝ち目はなかった。普段は無気力マイペースな田村までが、酒井と同じくらいの勢いでつっかかってくる。田村がそんなに谷山さんに惚れてたなんて全然気づかずにいた。 酒井たちのしつこさに辟易して、渋々原田のアパートに向かった俺を、酒井たちはしっかり見張りについてきた。この暇人どもめ。 チャイムを鳴らすと、狭いアパートだからドアの向こうで動く気配が感じ取れた。 「原田。俺」 名乗ってもドアは開かなかった。 「原田。俺だってば! つうか酒井たちに見張られてんだよ。とりあえず中入れろよ」 なんだかむかついてきて、足で軽く蹴っとばすと、ドアはようやく開かれた。玄関に立ちふさがり、俺を中には入れようとしないつもりらしい原田を押しのけて、俺は強引に部屋に上がり込んだ。 「おまえ、バイト辞めるんだってな。俺のせいみたいに言われてんだけど、なんでバイト辞めるんだよ?」 「宮越に会いたくないからだ」 俺の質問に原田ははっきり言い切りやがった。 「なんだよっ。嫌な奴だな。そういうこと言って回ってるわけ? 人を悪者にしてんじゃねーぞ」 俺は伸び上がって原田にヘッドロックをしかけた。 「原田くんがぁ、バイト辞めちゃったらぁ淋しくなっちゃう」 声音を作って耳元で囁く。 「辞めないように説得してきてぇ」 フッと耳の中に息を吹き込むと原田の首筋がみるみる紅潮した。このスケベ。俺はヘッドロックを外して原田の頭を軽く叩いた。 「と言うオンナがいるんだとよ。酒井と田村が頼まれたんだって。だからバイト辞めんなよ。もったいないだろ?」 片目をつぶってからかうように言った俺に、原田は低い声を出した。 「…どうしてそういうことするんだ?」 原田に手首をつかまれて、俺はその力の強さにびっくりし、いささかあせって問いかけた。 「な、何怒ってんだよ?」 「俺を挑発して楽しいか?」 訊いてくる原田の目は潤んでいた。うわ、俺っていじめっ子? てゆーか、原田ってこんな弱っちいんだったっけ? 思わずまじまじと見つめていたら、原田は顔をそむけて身体を離そうとした。 「なんだよ?」 俺は原田に追いすがろうとし、その瞬間、どういう加減でか、原田の股間が俺に触れて──奴が反応していることに気づいてしまった。 「あ」 バカだ、俺。うっかり声に出してしまって、原田は俺が気づいたことを悟ったようだった。 「……わざとだろ?」 「は?」 「宮越おまえ、この間からわざと俺を挑発してんだろ」 俺は言葉もなくブンブンとかぶりを振った。滅相もござりません。俺が何の故あって原田を挑発するというのか。うるうるお目目だったはずの原田は、いつのまにかおっそろしい表情で俺を睨みつけていた。 「おまえがあんなもん見せるから、俺はおかしくなったんだ。──もういい」 顎をあげて原田は吐き捨てた。 「もういいよ。なら見せろ、全部」 「なななな」 Tシャツの裾を捲られて俺はあせった。 「原田!」 裏返った声で叫ぶ俺をものともせず、原田は俺の服を脱がしにかかってきた。その時原田の息に微かにアルコールの匂いが混じっていることに気づいた。こいつ、昼間っから飲んでやがったのか。 「ち、ちょっと、原田!」 原田は俺のTシャツを喉元のほうまで強引に捲り上げた。そんなことしたら伸びちまうだろ、このTシャツ、俺、気に入ってんのに。晒された肌に原田の息がかかった。 「あっ」 なななな舐めた! 原田は剥き出しになった俺の乳首を舐めやがった。 「う、うあ」 あまりのショックにほとんど腰が抜けたようになって床に坐り込んだら、原田が俺の身体からTシャツを引き抜き、そのまま俺の上に圧し掛かってきた。 「宮越の身体、俺に全部見せろ」 そう言って手を下着の中に差し込んでくる。 「なんでっ」 見せろって……これ、これ原田、見てんじゃないじゃんかー! 「うわー、うわー、わあああ!」 モノを握り込まれて俺は声を限りに喚いた。 「うるさい! 黙れ宮越」 原田は実力行使とばかり俺の口に自分の口を押しつけて塞いだ。俺のモノを握ったまま、口の中に舌を差し入れてくる原田が恐ろしくて、俺はがくがくと震え出した。逃げようと顎を引けば息がつまる。ダメだ、もうダメだ。ギブアップだよ、原田。 「ごめん! ごめんごめんごめん! 降参! 俺、謝るから! 原田、許して」 口が離れた一瞬をついてまくし立てた俺を、原田が冷たい表情で見下ろした。 「何を謝って、何を許してほしいんだ?」 鎖骨からツと滑らせた原田の指が乳首でひっかかったように止まり、そこを押さえつける。「う」と声を漏らして、俺は唇を噛んだ。 「そんな…そんなおっかない顔すんなよ、原田」 なんだよ、この体勢。俺たちどうしてこんな恰好してんだよ。 「あのさー、あの、さやかちゃんと谷山さん。原田がバイト辞めるって心配してたの、さやかちゃんと谷山さんだよ。原田はどっちが好み……むぐっ」 手のひらで口を覆われて、俺は目を白黒させて原田を見上げた。 「最低だな、宮越」 低い低い声で吐き捨てられる。 「むー」 言葉にならない。最低って、だから俺、謝るって言ってんじゃん。口を押さえられたら何も言えなくなるだろう。こんなおっかない原田は初めてで、俺はほとんどパニックに陥りかけていた。原田の右手はいまだに俺のモノを握ったままだ。 「むぐ」 俺は口を覆った原田の手を外そうと首を振った。 「おとなしくしてろ」 原田の唇が喉元に触れて、噛みつかれると思った俺はびくんと身体を強張らせた。原田の唇は軽く吸い付くようにして俺の喉に沿って上下した。連動して右手まで動き始める。 「ぐっ、むむっ」 自分でも何を言いたいのかわからないまま、俺は声を出そうと必死だった。 「おとなしくしろったら」 ようやく口を覆っていた手を離したかと思えば原田はその手を俺の首の後ろに差し入れて、またもや口に口を押しつけてきた。もしかして、これって、キス?! 俺、原田とキスしてんの?! 口の中に侵入した原田の舌が、縦横無尽に動き回る。酸欠で頭がぼーっとしてきて何も考えられない。いつのまにか刺激される下半身が原田の手に応えるように硬くなり始めていた。床に爪をたてようとして、ふいに自分の手の存在を思い出した。俺は両手で原田の肩をつかんで身体を離そうと試みた──はずだったのだが、背中から回したのが失敗で、意図とは反対にまるでしがみつくようなポーズになってしまった。 「!」 その瞬間を狙ったように、原田の右手がオレの先端に軽くひっかくような刺激を与え、俺は反射的に腕に力をこめた。しがみつくようなポーズ、どころじゃなくて、本気で原田の肩にしがみついていた。 「宮越」 俺の口から外れた原田の唇が、俺の頬に熱い息を吹きかける。 「あ、あ」 俺はわけもわからず情けない声を漏らした。剥き出しの肌に触れている原田のシャツの感触。粘土細工のようにこね回されて身体が震える。 気持ちい…い、かもしんない。 ひょこんと浮かんだ感想に、自分で困惑した。 「んっ」 強弱をつけて揉みしだく力の加減が絶妙で、なんか、かなり……。 「アッ、アッ、アッ」 うわっ、やばい。やばいやばいと頭の片隅でくり返しながらも、肝心の口は閉じられず、あやしげな声が間断なく飛び出した。 いったん手を離した原田が下着ごとパンツを引き下ろそうとするのにも俺は自分から腰を浮かせて協力してしまった。 脱がし終えた原田が、今度こそ息がかかるような距離でまじまじと俺のモノを凝視する気配を感じて、俺は視線を空にさまよわせた。見られてるってことが羞恥とともに俺の中に説明のつかない感情を呼び起こした。 そして原田は俺の片足だけを持ち上げて後ろをさぐってきた。 「ちょ…」 抗議しかけた俺の口をごまかすように塞いで吸い上げながら、不穏な指が前と後ろを往復する。慌てて押しのけようとする俺の腕はまとめて原田の肩に抑え込まれていた。先走りでヌルつく指が前まで一緒に刺激するから気持ちよさに負けて抵抗もおろそかになりがちだった。下手をしたら持ち上げられている足をうっかり原田の身体に巻きつけてしまいそうだ。後ろの出口を指の腹でくり返し押されるたびに鼻から短い息が漏れる。 「うあッ」 ついに中に指を入れられて、俺は跳ねた。 「やめ…」 原田はもう一方の腕で頭ごと俺を抑え込んで、強引に指を進めてきた。 「離せっ、離せよっ」 精一杯叫んだつもりの声は原田の身体にさえぎられてくぐもっていた。それでもわめき続ける俺をなだめるつもりか、原田は無言のまま唇を寄せてきて、俺のまなじりに滲んだ涙を吸い取った。 「嫌だ、これは嫌だ」 俺はごまかされるものかとかぶりを振って顔を這う原田の唇を拒んだ。こんなの絶対許容範囲外だ。 「宮越、本当に嫌なのか?」 突然発せられた原田の声に、その内容まではとっさに理解できなかった。原田は首を傾げるようにしてしばらく見つめていた後で、いつのまにか原田のシャツを握りしめていた俺の手を柔らかくつかみ、その甲にチュッとキスをした。 「ふ」 思わず吐息が漏れた。 「そんな顔して、本当に嫌なのか?」 優しげな口調に乗っかって、俺は素直に「うん」と頷いた。無意識に甘えが滲んだかもしれない。 「でもダメだ」 原田は無情に短く切り捨てた。なんだよ、それ。呆れる隙もなく中を拡げるように指を動かされて俺は悲鳴を上げた。 「やっ! 何すんだ、ば…、や!」 罵る俺の肩をきっちり抱き込んで、原田が抵抗を封じ込める。自分がこんなに非力だとは今の今まで知らなかった。力ではまったく原田に逆らうことができないなんて。ボロボロと溢れる涙が原田のシャツを濡らしていった。 「ふ……う…う……」 首筋にかかる原田の息が熱い。片足に触れている原田の腰が熱い。 増やされていく指から逃れようと身体をずらせばますます原田に密着するばかりだった。 「痛い、痛いよ、原田」 中をかき回される感覚をどう表現していいのかわからなくて、俺はとりあえず痛いと訴えてみた。そうしたところでまったくやめてもらえる気配はなく、原田は俺を抱える腕に力をこめただけだった。 息苦しさに喘ぐ俺の開いたままの口から原田が舌を誘い出す。信じたくないような場所で濡れた音がしていた。耳をふさぐこともできずに俺はイヤイヤをするようにかぶりを振った。口付けをくり返されて唇の端から唾液がしたたる。 「も、もう嫌だ」 呟く喉がひくんと鳴った。指を抜き取った原田は、ジーンズの前を開けて解放した自分のモノを俺のモノにこすりつけた。 「アッ」 その瞬間、頭が真っ白になってイきそうになった。原田の両手が俺の尻をつかんでさらに腰をすりつけてくる。その熱で溶けてしまうと思った。 「イイ……」 無意識に口にしていた。 原田がかすかに笑う気配があって、膝の裏に手を入れて腰を浮かされ、さっきまで指でかき回されていた場所に原田の熱が押し当てられる。なぜか待ち望んでいたような気分になっていた。浮いた俺の腰を原田の手がしっかりと抱え上げる。俺は思考を放棄して侵入してくる熱を受け入れようとした。 「アッ! い、痛…い……う、うあ」 指で慣らされていたはずの尻をあらためて押し広げられる感覚に、予想外の悲鳴をあげた。その圧迫感は半端ではなく、わずかな侵入だけで、俺は悶絶しかけていた。こんなの入るわけないんだよ、何考えてたんだ、俺。無理だって、無理。無理だというのに原田の動きは止まらない。 「ダメ、痛いッ! 痛いから、原田ぁ……」 泣き声をあげる俺の髪を原田の指が梳いて、腰をしっかりと抱え直した。 「少し我慢しろ」 「ヤダッ──アアッ」 低い囁きとともに強引に最後まで押し込まれた。入ってしまえば妙に落ち着いた気がして、満たされた内側に、安堵に近いため息をつく。 原田は、奴のシャツをつかんでいた俺の指を外させて、腕を肩にかつぎ上げた。俺は思考が戻らないまま逆らわず原田の首に腕を回した。 「いくよ」 幻聴めいたかすかな合図に「え?」と確認する隙もなかった。 「アッ! ば……やめ、や、何、ンッ……あっあっ」 原田は俺の中で腰を使い始めた。 「あっ、あっ、あっ」 引き出されては押し込まれる。 「嘘っ、ヤダって──やだ……原田、あ、あ」 原田の首に回された腕はあっけなく外れてしまい、俺は行き場を失くした手を胸元で握りしめていた。それに気づいた原田は俺の手首をつかんで床に押さえつけた。 「ヤッ! 原田、嫌…」 自由を奪われた俺は自分ではまったく動けずに原田の勢いに翻弄されるしかなかった。 「うあ……もう、もう…」 呂律の回らない舌で、それでも何か口にしていないと、身の内に熱が充満しておかしくなりそうだった。涙が溢れてもう何も見えない。 「壊れ…、壊れるッ」 容赦なく内側をすりあげる熱に俺はのけぞって叫んだ。 「イク、イっちゃう、原田ぁ」 「もう、ちょっと…我慢して、宮越」 荒い息で囁いた原田は、爆発が近いらしくさらに激しく突き上げてきた。 「バカ、アッ、アッ、あああ」 とうとう俺の中に放出した原田はがくりと弛緩し、俺の上に身体を預けてきた。その重みをなぜか心地好く感じてしまった。整わない息が俺の肌をくすぐる。やがて身体を起こした原田が中から出ていく気配に、俺は切ない声を漏らした。 「ん」 いきなり原田は張りつめたままの俺のモノを口を含んだ。 「は、原田」 オレの回りで柔らかな口腔が絞るように蠢く。 「んっ」 同時に原田はさっきまで自分が出入りしていた場所に指を入れてきた。放出された精液をかき出す指が腸壁を刺激し、それと合わせるように前を吸い上げられて、俺はあっさり原田の口の中に射精してしまった。 「ああああ」 それはちょっと信じられないくらいの快感だった。 そして俺はあまりの疲れにそのまま眠りに落ちた。もしかしたらそれは気絶だったのかもしれない。 「バイト、どうするつもりだよ?」 俺の問いに、原田はじっと俺の顔を見つめてきた。 「宮越が、これからもさせてくれる気があるなら、バイトは辞めない」 あまりにストレートな台詞にとっさに言葉が出なくなり、俺は唇を尖らせて原田を見返した。同性の俺にセフレになれって言うのかよ。忌憚なく言わせてもらえば、俺は別に原田がバイトを辞めようが何しようが全然かまわないんだ。そんな条件は無効なんだ。だけど。 同じく無言になった原田としばらく見つめ合った後で、俺は視線を外し、頭を掻いた。 「うー」 唸る俺から原田は目をそらさない。 正直に言えば今までの女の子相手の体験とは比べ物にならないくらいすごかった。でもすごすぎて、こんなことしてたらおかしくなるんじゃないかって不安がある。今だって身体にはかなり違和感が残っている。 「俺、やっぱ怖い」 俺はとりあえず言ってみた。 「原田とこんなことしてたら気が狂っちゃいそうだ」 身体の中心を疼かせる痛みに、二度とこんなことするもんか、と思う心の裏側には、いつかこの痛みに慣れてそれが快感に変わってしまいそうな恐怖があった。 「俺はとっくに狂ってるからな」 原田はあっさり切り返してきた。 「宮越のせいでおかしくなった。だから宮越が責任取るのは当然じゃないか」 「俺のせい?」 何が俺のせいだって言うんだ。呆れて目をむいた俺に、原田は大真面目な顔で頷いてみせた。 「宮越が俺を誘惑したんだよ」 END この内容にこのタイトルが浮かんだ時点で、自分の脳が煮えていると気づきました。 |
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