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秋物語2



 翌日は昼近くまで寝ていた。身体が痛いし吐き気がした。どうにか午後の授業には出てアパートに戻ってくると、ぼくの部屋の前に小島が立っていた。ぼくに気づいて途方に暮れたような目を向けた。
「高井さん、どこ行ってたんですか?」
「どこって…学校だけど」
 ぼくが答えると小島はほっとしたように微かに笑みを浮かべた。
「土曜日、美術館に行きませんか? この間の展覧会、もう始まってるんですよ」
 市内の美術館でやっているポップアートの展覧会の話だ。大学の掲示板に貼られていたポスターに目を留めたとき、隣にいたのが小島だった。
「うん、いいよ」
 ぼくは頷いた。ぼくは小島への態度の取り方を決めかねていた。ぼくが小島を避けたら、ぼくたちの関係はそれで終わるだろう。けれどぼくは小島を失いたくはなかった。
 展覧会には午後から行った。ファミレスで夕食をとった後、アパートに戻ると小島はそのままぼくの部屋について来た。
「コーヒー、飲む?」
 小島が頷いたので、ぼくはコーヒーメーカーをセットした。小島と二人で部屋にいることに、どうしても緊張してしまう。沈黙がちの空間にコポコポというコーヒーメーカーの音だけが響いた。小島は何を考えているのだろうと思ったが、視線が合うことが怖くて、ぼくはいたずらに目を泳がせていた。ようやくコーヒーができて、ぼくはカップに注いで小島に手渡した。
「高井さんとこってコーヒーメーカーあるんだ。コーヒーが好きなんですか?」
「え? あ、うん。まあね」
 貰い物のコーヒーメーカーを家では使わないので持ってきているだけなのだが。
「ぼくなんかインスタントコーヒーも置いてないですよ」
「あ、悪い。コーヒー嫌いだった?」
「いえ、嫌いじゃないんですけど。一人だとあんまり飲まないから買ってないだけ」
 とりとめのない話題。ぼくの意識は、会話よりも小島の動きを伺うことに集中しがちだった。小島が砂糖を入れようと伸ばした手にさえ、びくついてしまい唇を噛む。ついつい上の空になってしまう相槌を打っていると、コーヒーを飲み干して小島は立ち上がった。
「ごちそうさま。帰ります」
「え?」
 ぼくは肩透かしを食らったような感じだった。あっさりと出て行く小島を呆然と見送る。
 それからぼくたちの関係は以前と変わりがないようだった。小島はぼくにキスさえすることはなかった。それは安堵していいはずのことだったが、ぼくは落ち着かなかった。あの夜はまるでなかったことのようだった。リセットしたいと確かにぼくは思ったが、でもいくらなかったフリをしたところで、なかったことにはならない。


++++++++++++++++++++

 いつしか学祭の季節になっていた。サークルに入っていないぼくには特に関係のない行事ではあったが、斎藤に誘われて一応足を運んだ。一年生の小島はサークルで出しているタコヤキ屋の呼び込みをやらされていた。
「おう、売れてるか?」
 先輩風を吹かして斎藤が声をかける。
「そうですね。まあまあかな。高井さん、おごりますよ」
「なんで高井になんだよ? まずは日頃世話をしてやってるオレにおごれ」
「斎藤さんは券持ってるじゃないですか」
「バーカ。もう高井にも買わせてあるよ」
 三年の斎藤には前売り券のノルマはないはずだったが、ぼくはしっかり付き合わされていた。
「え、買うことなかったのに。どうせぼくのノルマ余るんだから」
「アホ、ちゃんと気を入れて売れ。小島なら買ってくれるオンナがいくらでもいるだろうに」
 斎藤に言われて小島は顔をしかめた。
「そんなことないですよ」
 そこに先刻から広場を駆け回っていた学祭のスタッフジャンパーを着た男が通りかかり、小島を見て足を止めた。
「小島! 助けてくれ」
 大袈裟な身振りで泣きつく。
「なんだよ?」
「メインステージの参加人数が足りなくって。お前、出てくんねえ?」
「何?」
「フィーリングカップル」
 聞いていた斎藤が脇で吹き出した。ぼくも思わず苦笑する。
「だっせー。よくそんなのやるよな」
「オレの企画じゃねえって。今のとこ前から頼んであるサクラしかいないんだよ。で、時間がマジで余っちまう。頼むよ、小島。見事カップルになれば、ビールと食事券」
 スタッフの男は小島の肩にすがるようにしてまくし立てる。
「アホか。イマドキはやんないんだよ」
「頼むよオ。人が集まらないとオレが先輩に怒られる。そっちの友だちも一緒に」
 小島に泣きついていた男は、ぼくに視線を移した。ぼくは慌てて手を振った。三年にもなって晒し者になるのはごめんだった。
「いや、ぼくは遠慮しとく」
「オレもタコヤキ屋やらなきゃいけないから」
「そんなア」
 ぼくと小島に断られた男が悲鳴のような情けない声をあげたので、みかねたらしい斎藤が口を挟んだ。
「助けてやれよ。オレが代わりにタコヤキ屋の店番しててやるから」
「あ、三人で出てくれるともっと嬉しいんですけど」
「いや、オレは彼女にバレたら泣かれちまうからな」
 そう嘯く斎藤に促されて、ぼくまで小島と一緒に連れて行かれるハメになった。
「高井さん、ごめん。巻き添えにして」
「いや、いいよ」
 ただ小島と同じグループで出るのが嫌な気もした。きっと女の子の票は小島に集中するにちがいない。相手の女の子たちのほうも同じように声をかけられて引っぱってこられたらしい寄せ集めのグループだった。みんな可愛らしいとは思ったが、特に印象に残るわけではなかった。ただ正面に座らされた女の子と何度か目が合ったので、彼女の番号を上げると、彼女もぼくの番号を出していたので、ぼくたちはカップルということになった。
「おめでとうございます! お二人はカップルシートへどうぞ」
 司会のテンションだけが高くて、まばらな拍手に送られてなんだか情けない気分になる。予想通り彼女以外の女の子たちは小島の番号を上げていたのだが、小島がカップルにならなかったところを見ると、ぼくの相手のコの番号を上げたのだろうか。
 すべてのグループが終わるまで、ぼくたちはカップルシートとやらに座らせられたままだった。こんなのでカップルと言われたところでぼくたちの間には会話もなかった。女の子は俯いているし、ぼくには話しかける話題がない。ようやく解放されてふと気づくと女の子はいなくなっていた。「お二人でどうぞ」と渡された賞品の食事券とビール券はぼくの手に残った。やれやれと思いながらタコヤキ屋のほうに戻ると、小島はタコヤキを買っている女子高生らしき女の子たちを相手にしていた。嬉しそうに頬を染めている女の子たちを眺めて、やっぱり小島はもてるんだなと思った。近くの休憩席に座っていた斎藤がぼくに気づいて、歯にタコヤキの青海苔をつけたままにやにやと笑った。
「おめでとう。恋人獲得か?」
「バーカ。いなくなっちゃったよ」
「はあ?」
 女の子たちに囲まれた小島が、ちらりとこちらを見たのがわかった。
「終わったらいなくなったの。賞品、ぼくだけもらっちゃったら悪いよなあ」
「高井ー、どうしてそうトロイの? ちゃんと連絡先でも訊いてみればよかったのに」
「いいよ、別に」
 肩をすくめて見せ、女子高生たちがいなくなったので、小島に声をかける。
「ぼくにもタコヤキちょうだい。青海苔はかけなくていい」
 ぼくの言葉に小島が笑みを見せて、タコヤキと一緒にティッシュボックスを差し出す。
「ははは。斎藤さんにティッシュ渡してやってください」
「うん。あ、そうだ、小島も一緒にこの食事券使いに行こうよ」
 一人で使うのが気が咎めるから、斎藤と三人の連帯責任にしようと思い付いて誘ってみた。小島はいたずらっぽい表情をした。
「女の子、逃がしましたね」
「ああ。どうでもいいんだけどさ」
「そう?」
 からかうように覗き込まれて、ちょっとドキッとする。小島は、あの夜言ったことを忘れているのだろうか。男相手にバカなことをしたと考え直したのかもしれない。それは喜ぶべきことなのかもしれなかった。ぼくは友人としての小島を失わずに済んだのだから。でも。先走りそうになる考えに唇を噛む。まだわからない。ぼくは小島をどう思っているのか。


++++++++++++++++++++

 数日後、講義もなく部屋でごろごろしているところに斎藤からの携帯が鳴った。
―高井、今どこ?
 斎藤のただでさえ低い声が相当かすれている。どうやら携帯のせいではなく、風邪でもひいたのかあるいは飲みすぎかという感じだった。
「アパートだけど」
―ラッキー。コーヒー淹れといて。二人分。あ、おまえも飲むなら三人分
 どうやら飲みすぎのほうだったらしい。斎藤には酒の後にコーヒーを飲みたがる癖があった。
「三人分?」
―五分で行くからよ
 ぼくの疑問には答えもせず、一方的に電話は切られた。ため息をついてコーヒーをセットしたところにドアを叩く音が聞こえてきた。
「あのな、ここにはチャイムがあるんだよ」
 何度言っても必ずドアを叩く斎藤に思い切り嫌な顔をしてドアを開けると、小島が一緒だった。
「昨夜、学祭の打ち上げでさ。小島ンとこ泊めてもらったんだけど、こいつってばインスタントコーヒーも買ってないんだってよ。高井がコーヒーメーカー持ってるって聞いたからさ」
 ヘラヘラと笑う斎藤の酒臭い息がもろに吹きかかってぼくは鼻をつまんで文句をつけた。
「うちは喫茶店じゃないぞ」
「まあまあ、すぐ出て行くから。俺も小島も二限あるんだ」
 出来上がったコーヒーを「これだよ、これ。やっぱ飲んだ後はコーヒーに限るね」と満足そうに啜っていた斎藤がふと思い付いたように言い出した。
「そういえば昨夜、小島の片思いの話、聞いちゃった」
「片思い?」
「いいじゃないですか」
 小島が頬を染めてぶっきらぼうに遮るのもかまわず、斎藤は面白そうに話を続けた。
「小島くんはァ、最近恋愛の悩みを抱えてんだって。昨夜けっこう飲んでたもんな。俺は嬉しいね。こいつ可愛いんだぜえ。意外に純情少年」
「へえ」
 表情がこわばるのが自分でわかった。ぼくにあんなことをしておいて片思いには純情だと?
「おい、やばいぞ。間に合わなくなる」
 自分で話を振っておきながら、すぐに斎藤は時計に目をやってコーヒーを飲み干した。「ごちそーさん」と言い置いて、小島を促して出て行く。
 ぼくはこっそり部屋の窓から下の通りを見下ろして、斎藤と並んで歩いて行く細長い小島の姿を見送った。遠目のせいか、どこか頼りないようなシルエット。なぜか泣きたいような気持ちだった。小島が片思い? 気持ちの整理がつかないぼくを置き去りにして、小島はもう別の相手を見つけていたのか。
 急に苦いものがこみあげてきて、トイレで少し吐いた。朝食をとらずにコーヒーなんか飲んだから。自分に言い訳しながら情けなくなる。ぼくはいつの間にか小島を好きになっていたのかもしれない。ようやく気づいた時には小島の気持ちがぼくにはないというわけか。
 あまりのバカバカしさに笑い出した。笑いはすぐに涙に変わった。こんなことでぼくは泣くのか。自分で呆れたが涙は止まらなかった。
「ちくしょう」
 一人の部屋でぼくは悔し紛れに呟く。どうして年下の男なんか。

++++++++++++++++++++

 学祭の後は飲み会がいくつか続いていた。この日はゼミの忘年会で、斎藤がぼくのアパートに泊めろと言ってきた。斎藤は自宅生だから飲み会の時は、家に帰るのを億劫がってアパートの連中のところを泊まり歩いているのだ。斎藤は半端でなく飲むから自力で家に帰るのが難しいのだろう。すっかりできあがり大声でしゃべり続ける斎藤に閉口しながら連れ立って帰ってきた。アパートの階段を昇るために並んだドアの前を横切る。
 小島の部屋。台所の窓からは少し灯りがもれている。思わず止めそうになった足。斎藤がふと気づいたようにドアを見る。
「悩める青少年の相談にのってやろうぜ」
「ばっ。やめろよ。夜中に迷惑だろ」
 慌てて引っ張って行こうとしたが、足を踏ん張った斎藤をぼくが動かせるはずもない。ドンドンと小島の部屋のドアを叩き始める。だからせめてチャイムを鳴らせって。
「おーい、小島!」
 ガチャリとドアが開く。洗いざらしの茶色い髪が見えた。
「おお、小島。優しいオニイサンたちがおまえの悩みを聞きにきたぞ」
 斎藤に引きずられるようにして小島の部屋に入る。小島の着ているのがあの夜と同じパジャマということに気づいてちょっとどぎまぎした。勝手知ったる他人の家という感じで、ずかずかと上がり込み座敷に入る斎藤に、小島は台所に残ったまま声をかける。
「飲んでるんですか、斎藤さん?」
「おう。コーヒー買ったか?」
「ないですよ。ウーロン茶?」
「とりあえずサンキュウ。なんだよ、高井、座れよ」
 どうしようかと立ち尽くすところを斎藤に促されて、座敷に座った。小島がグラスを運んできて、ぼくの顔は見ずに差し出す。小島はぼくに後ろめたいのだろう。
「さあ、小島。おまえの恋の話をしようぜ」
「やめませんか?」
「なんだよ? 飲んでないと話せないの? ビール持ってこいよ」
「やめろよ、斎藤」
「だって、高井。こいつ、かわいいんだぜえ」
 聞きたくない。
「こいつったらさあ、好きなコを無理やり押し倒して、泣かれちゃったんだって」
 え? 思わず弾かれたように顔を上げて、小島と目が合った。小島は真っ赤になって視線をそらした。無理やり押し倒して泣かした? その相手って…。
「相手も何も言ってくれないし、なーんて、こないだ飲みすぎた時に拗ねてたんだよ。こーんなでかい図体して似合わないっつーの」
 酔っ払いの斎藤は傍若無人だ。斎藤の太い指でグシャグシャと髪をかき回された小島は、口をへの字にして子どもみたいに見えた。
「だっけどさ、その後も会ってるんだろ? そりゃー脈アリだよ。そうじゃなきゃ、小島は犯罪者じゃん」
 ふいに優しく諭すような口調になって、斎藤は小島を見、その視線をぼくに移した。
「なあ、高井、相手も小島のこと好きだと思うよなあ?」
 話をふられてしまった。乱れた髪のまま小島が痛いくらい真剣にぼくを見つめる。
「そ、うだな」
 ぼくは小島から目をそらさずに口を開いた。
「きっと、相手も小島を好きだよ」
「本当に?」
 少しかすれた声で小島が囁くように訊く。
「本当だよ」
 ぼくは頷いた。

++++++++++++++++++++

「本当に高井さんもオレを好き?」
 ぼくたちは台所に立っていた。閉められた引き戸の向こうで斎藤が眠っている。
「好きだ」
 額が触れ合うほどに覗き込まれてぼくは頷く。小島の茶色い瞳。懐かしい駄菓子の飴を連想した。触れ合った鼻の先の冷たい感触が快くて、ぼくはクスリと笑った。お互いに舌を出して舐め合う。犬みたいだな。そのまま唇を押し付けられる。むさぼるようなキス。ふっと息がもれてあせった。斎藤に気づかれる。
「高井さんの部屋に行きませんか?」
 言われて急にドキドキしてきた。やっぱり緊張する。
「ダメかな?」
 ぼくの不安を見透かして、伺う小島の視線。
「いいよ」
 覚悟を決めた。ぼくは小島が好きなのだ。小島はぼくを抱いて耳にキスをした。
 斎藤を起こさないように静かに小島の部屋を出る。ぼくの部屋に入るのに鍵がなかなか見つからなかった。自分があせっていることに気づいて小島と目を合わせて照れ隠しに笑う。電気は最初から点けなかった。カーテンを開けたままの窓から外の光が入って少しだけ明るい。
 キスを繰り返しながら服を脱いでいった。脱ぎながらお互いの服も脱がせ合う。始める前から少し感じていたが、それは小島も同じだった。狭いシングルベッドに二人で横たわると、ぼくは小島の身体に手を伸ばした。頬、顎、首筋の線。きれいな鎖骨に指を置き、肩を辿って脇から胸の突起に触れると、小島は小さく声を上げた。思わず笑みをこぼしたぼくを小島が引き寄せる。合わせた唇の間から小島の舌が入ってきてぼくの舌に絡まり歯の裏を這う。口付けたまま小島の手がぼくの背中をなでる。ぎゅっと押さえつけられてお互いの熱を感じた。
「入れてもいい?」
 隙間がないくらぴったりとくっついていたから、ぼくの心臓がドキッとがはねたのが、きっと小島にもわかったと思う。泣き笑いの困った表情でぼくを見つめている。ぼくは小島の肩に顔を埋めた。
「いいよ、入れて」
 早口に囁く。声がかすれたが、羞恥なのか恐怖なのか微妙なところだった。小島の身体が上になり仰向けにされる。緊張のためか呼吸がうまくできなくなっていて、軽く触られただけで声が洩れた。
「大丈夫。高井さん、ぼくを信じて」
 優しい声音で囁かれたが、多分そういう問題ではない。今ぼくはとても情けない顔をしているだろう。強張ったぼくの身体をほぐすように小島がゆっくりと愛撫をくり返す。
「は…あ」
 声を上げ始めると、そっと足を開かれるのを感じた。腰が持ち上げられる。
「アッ…。や、やっぱり、ダメ」
 指が入り込んでくる感触だけで逃げ出したくなった。
「そんな。今さらそれこそダメです」
 慌てたように小島が言って、しっかりと腰をつかまれた。
「アッ! や、やっぱり、やっぱ、無理だって…」
 小島の熱に火傷しそうだ。それなのに引き離すよりもぼくは小島にしがみついていた。
「大丈夫」
 長い時間をかけて小島はぼくの中に入ってきた。
「やっ。…小島、小島」
 ぼくの腰を抱える小島の腕をきつく握りしめる。小島の息も荒い。荒い息になりながらも小島がぼくを気遣ってゆっくりと身体を進めようとしているのがわかった。
「ふ…く、う」
「全部」
 しばらくして小島が嬉しそうに言うのが聞こえた。
「全部、入った」
 ぼくの言葉を待たずに徐々に腰を揺らし始める。
「は…、あっ、あっ」
 揺さぶられると小島の腕を握っているのがつらくなった。指が外れて手が落ちる。代わりにシーツをつかんだ。どうしよう。身体中が熱くてどうにもならない。
「アッ、ウッ」
「…っ、高井さん」
 小島の切なげな声が余計にぼくを煽る。小島の熱がぼくをどこかに連れて行く。上げすぎた声がまともに出なくなった頃、ぼくたちは達した。そのまましばらく抱き合っていた。
 少しして小島が「痛い」と呟いた。
「え?」
「腕。高井さん、すごい力なんだもん」
 正気に戻ったぼくは、小島の腕にしっかり赤く指の跡が残っているのに気づいて赤面した。でもこっちの痛みのほうが上だと思う。それはさすがに口にできなかった。
「…明日の朝、斎藤になんて言う?」
「イビキがうるさいから高井さんの部屋に避難したって言いましょうか」



END





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