恋はボディーブロー -2-「飽きたー。もう飽きちゃったよ、史郎。まーだ? まだまだまーだ?」 ポーズは崩さないままで須坂くんがわめき出すと部員たちはクスクス笑った。俺は苦笑した。ほらね、須坂くんにはスケッチが限界だと思ったんだ。 モデルを志願した須坂くんを俺は美術部の部室に連れてきた。その場に居合わせた部員たちから希望者を募って、スケッチを始める。普段ならこんな時はすぐにのってくるはずの祐史が、珍しく描いている途中の絵を仕上げると言って俺たちの輪に入って来なかった。 初め、俺と向かい合うように陣取った須坂くんはすぐに「ダメだ」と声をあげた。 「ダメだ、史郎。正面は照れる。やっぱ場所変えて」 俺は黙って椅子を移動させた。正面から見つめ合ったら、こっちもスケッチどころではなくなりそうだった。 脇からのアングルは俺に須坂くんのスタイルのよさを再認識させた。パイプ椅子の高さより膝の位置のほうが断然高い。 唇を結んで表情を消した須坂くんはひどくハンサムに見えた。引き寄せられて目がそらせない。思わず全身を捉えるより先に、その横顔だけを写し取っていた。 こんなにかっこいい男がどうして同性の俺と付き合っているのか、あらためて考えると不思議になる。そして俺はどういうつもりで須坂くんと付き合っているのだろう。俺は須坂くんを好きだと思っている。でもその気持ちは、女の子が彼を想うのと同じだろうか? 横顔のラフを終え、クロッキー帳をめくって、全身に移る。 痩せてはいてもバランスのいい身体。何気ないポーズがことごとくサマになる人。 逆に俺は須坂くんを女の子の代わりには思えない。キレイな顔立ちだと思う。可愛いと感じる。だけど抱くんなら、やっぱりホンモノの女の子がいい。俺は須坂くんとセックスすることなんか考えられない。 …本当に? からかうような笑顔とか。いじけた時の口調。囁く声。思い浮かべれば、身体が熱くなる気がする。それでも男同士で具体的にどうこう想像したくなかった。 キスだけじゃダメだろうか? 触れ合うだけじゃダメなのか。好きだという気持ちのその先をつきつめたくない。下半身なんてやっかいなものがなければいい。 なんとなく須坂くんの気持ちがわかってしまうのは、同性だからなんだろう。付き合っていたら、その先に進みたいって男なら誰でもそう思うだろう。俺にはその覚悟がないのか。須坂くんに惹かれる気持ちは、恋愛じゃないのかもしれない。 そんなことを考えながら木炭を走らせていた。大体の輪郭が捉えられた頃、図ったようなタイミングで須坂くんが「飽きた」とわめき出して、俺はクスリと笑う。嫌味のない天真な態度が愛しかった。 やっぱりこの人は可愛い。この気持ちは確かなのに。 俺は顔を上げて、周りの部員たちを見回した。 「俺はもういいですけど、他の人は?」 「市野が終わりならもういいんじゃない?」 三田の言葉に俺は木炭を置いた。 「じゃ、須坂くん、ありがとうございました」 「ハイ、お疲れー。どんなん描けた?」 背中にのしかかってきた須坂くんは、肩越しに俺のクロッキー帳をめくった。 「おー、かっこいいじゃん、俺!」 「うっさいなー、もう!」 突然、部室の隅から祐史が大声を張り上げた。 「部員でもない人は静かにしててもらえませんか。集中できないよ」 「なんだと、こら。どんな大層な絵を描いてんだよ」 挑発に乗った須坂くんが立ち上がり、祐史のキャンバスを覗き込んだ。 「これは犬か馬か」 「しっつれいだな」 「どっちが失礼だ」 祐史は俺のほうにしかめっ面を向けた。 「なんだよ、シロちゃん、こんな奴と友だちなの」 「こら、誰がシロちゃんだ。勝手に呼んでんじゃねえ」 「須坂くん」 俺は慌てて二人の間に割って入った。 どうやら祐史は須坂くんが気に入らなかったらしい。人見知りしない須坂くんはたいていの人とすぐ馴染んでしまうのだが、たまに反発する人もいて、祐史はそのタイプのようだ。祐史自身、屈託がないように見えて、実は人の好き嫌いが激しいらしいことを、俺も以前から感じてはいた。 二人とも個性が強いと言えば言えるので、反発し合ってしまうのかもしれなかった。 「史郎、おまえ後輩はちゃんと躾ろよ。んだよ、こいつ。シロちゃんなんて馴れ馴れしいんだよ」 「うわ、ヤな感じ。すっげーヤな感じ。サイアク。シロちゃん、こんな奴とは縁切ったほうがいいよ」 「てめえ、ざけんな、バカ。史郎、こんな奴と口利くなよな。俺、ぜってー許さないから」 小学生のような言い合いにさすがに呆れて俺は手を上げた。 「ああ、もういいよ。勝手に二人でやってて」 「史郎ー」 「シロちゃん」 慌てた二人のリアクションが同じだったのでつい笑ってしまった。 「祐史、おまえも失礼だよ」 とりあえず先に言い出した祐史をたしなめておく。 「ごめーん」 俺の言葉に祐史は能天気に謝った。 「祐史?」 ぴくっと須坂くんが反応した。 「あ」と思った時には遅かったらしい。 「俺、帰る」 プイッと須坂くんは部室を出て行った。 「感じ悪い人だなー。何あれ。なんでシロちゃんあんな奴と友だちやってんの」 須坂くんの出て行ったドアを眺めて、祐史は俺のほうに顔を寄せてきた。 「バカ。ゼミの先輩だよ。祐史の態度も悪かったじゃないか。先に「うるさい」って言ったの祐史だろ」 「だってーうるさいんだもん。史郎、史郎って、感じワルッ」 吐き捨てた祐史を三田がからかう。 「あららー、祐史クン、それはヤキモチでちゅか? 初恋のシロちゃんを取られてくやちかったんでちょ」 「三田さんはー! すぐそういうこと言うんだから。そんなんじゃないですー!!」 「へへえ? でも祐史クン、お顔が赤いでちゅよ」 「バッカじゃないの! 三田さんってほんとバカ」 ぎゃーぎゃー喚き立てる祐史の頭を三田はバチンと叩いた。 「ほらー、祐史、おまえさん、先輩に対する態度がなってないんだよ」 「三田さんが悪いんだよッ」 騒いでいる連中を残して、俺はこっそり部室を抜け出した。棟の入り口のところで煙草を吸っている須坂くんをみつけた。 「おっせーんだよ」 「え?」 近づいて行った俺に、口から煙草を外した須坂くんが文句をつけてきた。 「ちゃんとー、さっさと追いかけて来いよな。むかつく、てめえ」 胸倉をつかんで引き寄せられて、まさかこんなことで殴られるのかと思ったら、唇が触れた。煙草の味。 「須坂くん」 「だからむかつくんだ、史郎は。あんな野郎を名前で呼んでんのに、俺のことはいつまで経っても」 「だって、祐史は後輩だし。みんなそう呼んでるから」 須坂くんは手にした煙草を吸い込み、上を向いてスパーと盛大に煙を吐き出した。そのまま横を向いて「んなこと言ってんじゃねえよ」ボソッと口の中で呟いた。 「俺のことつまんない奴だと思ってんだろ?」 「須坂くん」 「細かいことにこだわって、ちっせー奴だと思ってんだろ」 俺に答える隙も与えずに畳み掛けてくる。 「なあ、俺たち付き合ってんだよな?」 一体どうしてしまったというのだろう。付き合い始めてからの須坂くんは少しヘンだ。 「俺の一人相撲?」 「…どうしてそんなに」 卑屈とも取れる須坂くんの態度が理解できなくて口ごもった。須坂くんは誰が見てもハンサムでかっこよくて、モテて当然の人なのに。そんな人がどうして俺なんかの顔色を伺うんだろう。 「史郎が」 須坂くんは斜めに視線をそらした。 「史郎が…史郎は、一人で余裕こいてるように見える。俺が好きだっつってるから、しょうがなく付き合ってんだろ」 「そんなんじゃないよ」 俺は情けない気持ちで言った。しょうがなく付き合っているなどと思われていたら悲しい。 「そんなんじゃない。俺は須坂くんを好きだよ」 「『好き』のレベルがちがうんだよ!」 いきなり怒鳴られて心臓が跳ねた。須坂くんの怒鳴り声を初めて聞いた。須坂くんは本気で悔しそうな顔をしていた。 「史郎の『好き』は、どうせ他の奴と大差ないんだろ。そういうの『好き』って言うんじゃねえよ『嫌いじゃない』っつーの。…俺、俺は余裕ないんだよ、バカ」 その目の中に、涙が浮かんでいるのを見て、キてしまった。 可愛いとかそんなふうに思う余裕もなかった。 俺は須坂くんを抱きしめた。 「好きだ」 もしも、須坂くんがハンサムじゃなくても、女の子に人気がなくても、俺はこの人を好きになっただろう。 「俺だって、半端な気持ちじゃないよ」 俺の部屋。俺の布団。中にいる俺たちは裸で。覚悟を決めて口付けを交わす。 「俺が本気だって証明できるよ。俺、須坂くんになら抱かれてもいい」 「史郎」 とまどうように俺の名を呟く愛しい唇。俺は上から口付けて舌を入れた。丹念に味わうように歯列をなぞる。須坂くんの手が俺の背に回り背骨に沿ってゆっくりと上下した。足の間に足を入れて、お互いの下半身を擦り合わせた。 やがて須坂くんは身体を少しずつ下にずらしていった。唇が俺の顎から首筋を伝い、胸に降りていく。肌に吸い付き、時折舌を出して舐めながら、唇は乳首にたどり着いた。舌先でノックされて軽く声が出た。 「ん」 俺は須坂くんの髪に指を差し込み、愛撫した。耳の後ろ、首筋、顎のライン。 「ああ…」 俺のものは須坂くんの腹のあたりで擦られ、太腿の間に須坂くんの熱を感じていた。 須坂くんは身体を反転させ、俺を仰向けにした。 「本当にいいか?」 俺は押しつけられた須坂くんのものに手で触れた。これを俺の中に入れるんだ。 「史郎」 黙ってそれを撫でた俺に、困った顔で須坂くんが囁く。俺は身体を起こして、帰りがけに寄ったドラッグストアで買ってきたスキンに手を伸ばした。須坂くんにかぶせているうちにふと笑いがこみ上げてきた。男同士で裸になって興奮してるなんて変だ。肩が揺れた。 「史郎、おまえ」 須坂くんが驚き呆れた声を出す。俺は須坂くんの胸の前で俯いたまま首を振った。 「ごめ…ちがう、なんか、俺」 須坂くんが俺の顎をつかみ、キスをしてきた。 「笑うなよ、史郎」 真直ぐに見つめ合う。 「俺、多分、結構緊張してるんだよ。だから、なんか笑えるんだ」 「やめるか?」 困ったような表情で、須坂くんが言った。 「やめないよ」 やめる理由なんかない。俺は須坂くんが好きで、須坂くんは俺を好きなんだから。 俺は須坂くんの肩をつかんで引き寄せるように仰向けになった。そのまま覆い被さってきた須坂くんがキスを落として、俺の足を抱えあげた。 息を吸えばいいのか、吐くべきなのか、わからなかった。 喉が、鳴った。 須坂くんの息が首筋にかかって、そこが湿って熱くなる。 のたうちそうな身体を必死で抑えた。 「史郎」 名前を呼ばれて目を開けると、須坂くんが不安そうに覗き込んでいた。どうやら全部入ったらしい。俺の中に須坂くんが入っている。かなりきついけれど、なんだか感動してしまった。 須坂くんの手が俺の髪をかきあげた。 「史郎」 「うん」 頷いて、須坂くんの切羽詰ったような表情を見たら、少し笑いそうになった。 「笑うな」 ぎゅっと鼻をつままれたせいで、かえって笑い声がこぼれてしまった。振動が繋がってる部分を刺激した。 「あ…ッ」 「ん」 中に入ってる須坂くんのものが硬さを増したのを感じた。慣らそうというのか、須坂くんは俺の腰を抱えてしばらく動かずにいた。 「なんか…も少し、動くとか…」 いつまで経っても須坂くんは俺の腰を抱えたままで、俺は仕方なく促してみた。 「大丈夫かよ?」 須坂くんは心配そうに確認してきた。壊れ物を扱うような須坂くんの手が頬や額に触れる。本当に女の子でも相手にしているみたいだ。 「大丈夫、と思うよ。だってこのままずっと、じっとしてるわけにもいかないじゃん」 客観的に考えると、結構おかしな態勢だよな。そう思ったらまた笑いがこみ上げてきた。ダメだ、ヘンなツボに入ってしまったらしい。身体が揺れる度にそこに痛みが走るのに、笑いが止められない。 「史郎…おまえ」 呆れたような須坂くんの顔が、次の瞬間意を決した表情になった。 「このやろー、感動の初体験をお笑いにはさせねーぞ」 いきなりグッと突き上げられて、俺は呆気なく声を洩らした。 「あッ」 「そんな余裕なくしてやる」 「ちが…、ちょ、須坂く…」 熱が内側を擦り上げる。急転直下の事態に俺はあせった。 穏やかな川を下っていたはずの舟が、突然急流に巻き込まれたみたいだ。激しい渦に翻弄されて舵を失う。 「んッ、あ、あ」 須坂くんは少し腰を引いてはためらいなく突き上げてきた。手加減なしだった。 「やめ…、んう。は……ああッ」 深く穿たれて逃げることもできない。 この人、初めてって絶対嘘だ。嘘だとは思っていたんだ。 「史郎、イイ?」 こういうこと訊いてくるのって、いかにもじゃないか。騙された、騙されたー。 「ごめん」 目を覚まして、最初にかけられた言葉がそれだった。思わずため息が出た。 「もういいって言ったのに」 俺は手を伸ばして須坂くんの頬をつねってみた。昨夜終わってからも散々謝ったくせに。 「だって」 視線をそらして言いよどむ。暴走したかと思えば、いつまでも気にしたりする。こういうのもナイーブって言うんだろうか。 思いついたことがあって、俺はコホンと咳払いした。 「あのさ、シた後で謝られるのって、なんか後悔されてるみたいで、ひっかかるんだけど」 「ちがっ」 須坂くんがあせった顔で前髪をかきあげたので、俺はすかさずキスしてやった。笑いがこみ上げてくる。須坂くんは唇を尖らせた。 「史郎、おまえ、なんか余裕じゃんか」 「うん、余裕、余裕」 俺は笑ってみせた。俺は須坂くんの気持ちを受け入れることができる。俺は須坂くんを好きでいられる。 目を丸くしていた須坂くんの顔が、ふいにぼやけた。 「史郎」 須坂くんの驚いた声がする。自分で予期しなかった涙が俺の頬を伝っていた。 「俺、本当に、須坂くんが好きだよ」 呟くと、須坂くんが無言で俺を引き寄せた。髪をまさぐりながら後頭部を撫でる優しい手。 俺は身を起こして須坂くんにキスした。頬や額や、とにかく唇の当たる先にランダムなキスを送る。お返しに須坂くんからもキスが来て、お互いにキスし合っているうちに笑いがこぼれ出した。クスクスと笑い合っているところに、玄関のチャイムが鳴った。 「寝てろよ。どうせ宅急便か何かだろ。俺が出てやるから」 くしゃくしゃっと俺の頭を撫でて、須坂くんが立ち上がるとベッドがきしんだ。俺は少しだけ感傷的な気分でその背を見送ったが、すぐにそんな感傷など吹き飛ぶ会話が玄関で始まった。 「なんの用だよ?」 不機嫌な須坂くんの声に続けて聞こえてきたのは、祐史の声だった。 「なんであんたがいるわけ?」 「勝手だろ。おまえに関係あるか。史郎に用なら伝えといてやるよ、なんだよ?」 「シロちゃんはどうしたんだよ」 「史郎は出てこれないから、俺が伝えてやるっつってだろ」 「あんたに言うことなんかないよ。シロちゃんを出せよ」 「出られないって言ってんの。なんだよ、ずうずうしいな、朝っぱらから」 「朝じゃないだろ」 「俺たちはー、さっきまで寝てたの! 早寝早起きのお子ちゃまとはちがうんだよ。はい、さっさと帰った、帰った」 「シロちゃーん、今日の部活、絶対出席だって! 携帯通じないから、念のため来たんだからね。聞こえてる? シロちゃん」 祐史のバカでかい声が響き渡る。アパート中に聞こえただろう。 「伝えといてやるっての。でも史郎が部活行けるかどうかはわかんねーよ」 須坂くんの言葉を無視して、祐史は部屋に向かって叫んできた。 「絶対出席だって言ってたからね、シロちゃん」 「おとなしく帰れ、バカ」 しつこく続く罵り合いに俺は頭を抱えた。あの二人は同じ極を向けた磁石みたいだ。 「何やってんだよ?」 戻ってきた須坂くんは、服を着始めていた俺に驚いたように問いかけてきた。 「ガッコ行ってくる」 「無理だよ、無理。なんだよ、あんなの無視しとけよ」 「そんなわけにいかないよ」 グズグズと言い続けるのをあしらいながら俺が仕度をしてしまうと、須坂くんは仕方なさそうに車で送ってくれると申し出た。正直に言って昨夜あんなことをしたばかりで歩いて行くのは非常につらいのでありがたかった。 大学へ続く細い道に入ったとたん、前方にトボトボと歩いている背の高い姿を見つけた。 「祐史」 呟いた俺に、須坂くんはわざとらしくアクセルを踏み込み、祐史の脇を走り抜けた。 バックミラーで確認すると俺たちに気づいた顔が唖然として見送っていた。 「須坂くん」 「いいだろ。別に何もしてない」 横顔のまま意地っ張りな口調だった。俺はこっそりため息をついた。 「俺、終わるまで待ってるから、終わったら携帯鳴らせよ」 そう言って生協のほうに歩いて行く須坂くんを見送って、俺は実技棟の入り口で祐史を待っていた。 まもなく肩をいからせた祐史がやってくる。唇を引き結んだ顔は、泣きベソをこらえているようにも見えて、俺は苦笑した。 「祐史」 声をかけても、少し顎を引いただけでムッとした表情を崩さない。大股に歩いている祐史に並びながら、俺は問いかけた。 「今日、何があるんだろうな?」 祐史は黙ったまま、ブンブンと首を振った。そのまま歩き続けた祐史は、唐突に口を開いた。 「シロちゃんはー、なんであんな奴と仲良くしてんの?」 いきなり恋人を「あんな奴」呼ばわりされてしまった。 「あんな奴って、祐史は須坂くんのこと何も知らないのに、勝手につっかかってんだろ」 「だってむかつくよ」 「何がむかつくんだよ?」 「わかんないけど、むかつく。だーかーら、俺のことじゃなくって、なんでシロちゃんは、あんな奴と仲いいんだよ?」 それは、俺の勝手だろ。と言ったら可哀そうな気もするかな。 「俺は須坂くんが好きだよ」 ハンサムで頭の回転が速くて、調子にのり易くて、すぐにいじける。誰に触れ回るつもりもないけれど、俺の大切な恋人だ。 「ダイッキライ!」 突然の大声にびっくりして見上げたら、その場に足を止めた祐史が拳を握りしめて叫んだ。 「俺、あいつ、ほんっとーに嫌い!!」 それは小学生の主張だった。 俺は足の力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。祐史が慌てて屈みこんでくる。 「シロちゃん、どうしたの?」 「いや大丈夫、ちょっと…貧血」 祐史のコンパスに合わせて早足で歩いていたせいか、腰の重さに耐えられなくなっていた。 「ゴメン、やっぱ俺、今日は欠席って伝えといて」 「保健室に行く?」 祐史は俺の顔を覗き込んだ。まだちょっと歩けそうにない。俺は首を振って祐史を見上げた。 「祐史、部室行っていいよ。俺、なんか…足が痺れてて、うまく歩けないから、治ったら自分で保健室行くから」 祐史は俺の前に背中を向けた。 「俺がおぶって保健室に連れてく」 「いや、いいよ」 それは困る。昨夜の今日でその体勢は絶対にできない。 「あーもう!」 業を煮やした祐史は俺を正面から荷物のように抱え上げた。 「うわッ! ちょっと待て、祐史」 俺の抗議を無視して、祐史は走り出した。 「バカ、おまえッ」 「黙ってて」 なんという馬鹿力。 生協の前を通り過ぎる時、信じられないものを見るような表情の須坂くんとバッチリ目が合ってしまい、俺は頭を抱えた。 |
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