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曇天



「そろそろ腹が減ってきたな」
 コタツにもぐり込み、こちらに背を向けて寝ていた上沢がそのままの体勢で独り言みたいに呟いた。無言の俺に、わずかに半身を起こして「なあ?」とせっついてくる。
「どこか食べに行こうってのかよ?」
 俺は読んでいた文庫本から顔を上げもせず答えた。あからさまに不機嫌な声を作ってやったが、鈍感な上沢は気づきもしない。
「うーん。それも面倒だな。加村、何か作ってよ」
 平然と甘えたことを言ってくる。
「材料がないから無理だ」
 ピシャリと言い捨てて、あてつけで小説の朗読を始めた俺に、上沢は声を立てて笑って、再び横になってしまった。文庫の陰からチラッと窺えば、てっぺん近くの髪に寝癖がついている。昨夜やってきた時の恰好とじゃ大違いだ。きっちりスーツなんか着込んできた上沢に、差を見せつけられたみたいな気分になった俺がアホらしく感じる。

 上沢は去年までのバイト仲間だった。就職して地元に帰って行ったが、こっちで研修があるからっていきなり連絡を寄こしてきた。研修明けに泊まらせろと言われても、まさかそのまま週末を一緒に過ごしていくつもりだなんて思いもしなかった。大体まるまる二日も暇なんだったら、早目に教えといてくれればスノボに行くとかできたんじゃねーか。
 朝から空には一面雲が低く垂れ込めていて、窓の外の景色は色を失くした墨絵みたいだ。時折調子外れにエンジンをふかすような音を立てる古いエアコンは必死に部屋を暖めようとしているらしいが、あまり効き目が感じられなくて、俺たちは二人してコタツにもぐり込んでいた。

 それにしても上沢の奴ときたら、しばらくぶりに会ったというのに、人んちのコタツでゴロゴロ、ゴロゴロ。上沢が俺に対して遠慮というものをなくしやがったのは、いつからなんだろう。
 一つ上の上沢を、俺は最初の頃、タメか年下くらいに思ってた。律儀に「加村君」なんて呼んでくるし、話す時は丁寧語だし、よく言えば真面目そうな、悪く言えば頼りなさげな風貌をしていたから。散々呼びつけにしていた後で年上だと判明したところで、とってつけたように呼び方の訂正もできず、俺はそのまま「上沢」と呼び続けた。それでもって俺につられたみたいに上沢の態度が変化してきて、すぐに「加村」でタメ口になっていた。バイト仲間の中で、上沢がそんなふうに接していたのは俺だけだったから、俺はずっと俺と上沢は親しいんだと思ってた。
 卒業した上沢がバイトを辞めたからと言って、それで簡単に付き合いが変わるなどとは考えてもみなかった。
 就職で地元にUターンを決めた上沢を薄情者と罵った俺を、本社がこっちだから最初の研修期間はこっちにいるとなだめたくせに、いざ仕事が始まってからは上沢はちっとも俺と会おうとしなかった。それまでが当たり前のように一緒にいて、改めて連絡を取るような関係ではなかったから、縁遠くなるのもしかたないと言えばそれまでかもしれなかったが、いくら俺から誘いをかけても、上沢にはなんだかんだと用事が入っていて断られてばかりだった。それが学生と社会人の差だと告げられているようで、ひがんだ俺はこちらから携帯やメールをするのをやめた。そしたら卒業した後には上沢から連絡してきたことなど一度もなかったことに気づいてしまった。たまにバイト先に顔を出しに来た時だって、他の奴とばっかしゃべって、俺は無視されてるみたいに感じていた。
 つまり上沢にとって俺は、偶然バイトが一緒だっただけの、特に意味など持たない存在で、生活が変われば離れるのも惜しくない相手だったんだろう。勝手に学年を超えた親友同士などと思い込んでいた自分が情けなかった。


 トイレに立った俺はついでに冷蔵庫から缶ビールを取ってきた。ペキンとプルを立てれば音に気づいた上沢が「昼からビールかよ?」と声をかけてきた。咎めるような響きを聞き取って俺は「うるさい」と返した。てめえが久しぶりに来るっていうから、こっちはわざわざビールを用意して待ってたんだろうが。上沢にとって俺がただの友人その一にすぎないとしても、俺はやっぱり上沢と会うのが楽しみで、連絡をもらえただけで勝手に盛り上がってしまったのだ。泊まりに来るならつもる話もできようかと期待してもいた。それを昨夜やってきた上沢は、研修最終日前夜の打ち上げで飲み過ぎたから飲めないなどとあっさり袖にしやがった。俺と飲むよりそいつらのがいいんだろう。
 あてつけるように喉を鳴らしてビールを流し込んでいると、上沢が起き上がった。
「俺も飲む。コタツ、ちょっと熱すぎないか?」
 寝ていたせいか、上沢のまぶたは少し腫れぼったく見えた。俺は上沢の切れ長の目元が気に入っていたのに。『涼やか』なんて表現が似合う目の実物を初めて見たと思っているくらいだ。
「さっき寒いって言ったくせに。文句ばっかつけてんじゃねー」
 俺は飲み終えた缶をグシャッとつぶして、新しい缶を取りに行った。ついでに上沢の分も持ってくる。あくまでついでだ。仏頂面で差し出した俺に「ありがとう」と受け取った上沢は、困ったように唇を曲げて謝ってきた。
「悪かったな、加村の都合も考えずにいきなり押しかけてきて」
 静かな声にむかっ腹が立った。瞬間沸いた怒りを静めるために俺は二本目のビールを口に含んだ。
「んなこと言ってねーじゃん」
 そっぽを向いて言い捨てる。俺たちは互いに気をつかうような間柄じゃないだろってそう言いたかった。俺は上沢が年上だからって気を使ったことなんかないし、上沢にも俺に対して気をおくような気持ちになってほしくなかった。見当違いの謝罪が苛立たしい。俺が不機嫌な理由をどうしてわかってくれないんだ。
 一緒にいた頃、俺の気持ちを上沢は全部わかってくれてると感じていた。俺も上沢の考えをちゃんとわかっているつもりでいた。具体的に言葉にできなくてもお互いにわかり合えてると信じていたんだ。
 俺が真っ直ぐに見つめれば、上沢はしっかりと受け止めてくれたから。切れ長のその目に見つめ返されて妙に高揚した気分を味わったりもした。
 なのに、今、上沢は俺から視線を外してばかりだ。
「どこ見てんだよ?」
 せっかく持ってきたビールも何口か飲んだだけで、再び寝転がり俺に背を向けてしまった上沢に問う。
「雪が降るんじゃないかと思ってさ」
 上沢の答えに、俺は相槌を打った。
「降るかもしんねえな」
 窓の外の低い雲。雪催いと言うんだろう。なぜか懐かしい気持ちにさせる天気だ。ビールの酔いが回りかけていた。
「そして俺は賭けの有効期限について考えているわけだ」
「は?」
 同じように雪を待つ気分になって近づきかけていると期待したところを、唐突な科白ではぐらかされたと感じた俺は、素っ頓狂に訊き返したが、上沢は頓着せずに続ける。
「去年は暖冬だったな」
「そうだっけか?」
 わけがわからなくなった俺はコタツにひじをついて頭を支えた。
「雪は降らなかった」
「ふーん。よくそんなこと憶えてるな」
「賭けのせいだよ」
 要領を得ない上沢の言葉が呪文のようで、俺は腕で頭を支えているのさえ億劫になってコタツの天板に頬をつけた。いつのまにか火照っていたらしい顔にひんやりとした冷たさが心地好い。
「賭けってなんだよ?」
 俺にわからないことばっかり言うなよ。俺には上沢の言うことがわかるって、ずっと自負してきたのに。
 上沢がようやく身体を起こしたので、俺も少し頭を上げてそちらを見た。見つめる切れ長の目。見つめ合ったまま上沢は口を開いた。
「雪が降ったら、おまえに告白するって決めていた」
「何を?」
 なにげなく問い返したら、上沢の顔が微妙に歪んだ。俺は自分がしくじったのを感じて、慌てて上沢に手を伸ばした。
「なんだよ、言えよ。上沢が俺に何を隠してんのか知らないけど、別にそんなんで俺とおまえの間が変わるわけないじゃん」
 甘え混じりだと自覚しながら、伸ばした手で上沢の袖をつかんで揺すれば、上沢はむっとしたような目で見下ろしてきた。
「…変わらないんだったら、言う必要ないな」
 相変わらず頑固。上沢は優しげな容貌をしてるくせにうっかり機嫌を損ねるとやっかいなんだ。なまじ表立っては怒ってみせない分、対応が面倒になる。
「気になるだろ、そういうの。言え」
 さっきまで不機嫌なのは俺のほうだったのに、いつのまにか反転していた。食い下がる俺から外した視線を上沢は再び窓の外に向けた。
「雪が降ったら言うよ」
「降っただろ。今年っつーか──今シーズンか、十二月からもう何回も降ってんじゃん」
 傍から見たら俺たちの関係は、ワガママな俺に忍耐強い上沢がつき合ってくれているように見えただろう。でも実際はちがう。頑固な上沢を俺がなだめすかしてばかりいたんだ。
 バイト先の社員とケンカした時だってそうだ。店舗マネージャーの見習いとしてやって来たそいつの横柄な態度にバイト仲間はみんな腹を立てていたけれど、上沢はみんなが文句を言っている輪には一度も入ってこなかった。そのくせ何の時だったか、いきなり正面からその社員に意見しやがった。まともに話の通じる奴じゃなくて、みんな陰で文句を言うだけで諦めて相手にしてなかったのに。だけど上沢が口火を切ったせいで、他のバイトたちもその社員に抱えてた鬱憤を吐き出し始めて、最終的にはつるし上げみたいになってしまった。後になって俺の前で「あんなつもりじゃなかった」と嘆いた上沢を、それでも俺はかっこいいと思った。
「俺がおまえといる時に降ったら言う」
 上沢は話を打ち切ろうとするように、また背を向けて横になってしまった。
「そんな確率のひくーいこと言ってんなよ」
 だいたい今だって会うの何ヶ月ぶりだと思ってるんだ。俺がいくら誘っても断ってばかりいたくせに。俺は、俺たちが親しいと思っていたけれど、本当は俺が上沢につきまとっていただけなのかもしれない。上沢は年上の度量でそれを受け止めていただけなのか。胸が痛い。一緒にいた頃にはこんな卑屈な考えが浮かんだりはしなかったのに。
 俺に背を向けたまま上沢は苦笑まじりに呟いた。
「そのくらい確率の低い賭けなんだ」
 俺には上沢の賭けの見当さえつかない。上沢が俺に告白しなければならないようなものを抱えていたことさえ知らなかった。その背がひどく遠く感じられて、無性に触れたくてたまらなくなった。
「降らねえかな、雪」
 寝転がった上沢の肩に手をかけてその向こうにある窓をうかがう素振りをすると、上沢は身体を半回転させて仰向けになった。いきなり至近距離で目を合わせるはめになって、俺はなぜかあせった。
「…雪、降ってほしいか?」
 静かに訊かれて、「べっつにー」と慌てて手を離した。上沢を真似て俺も仰向けになった。コタツの中で足がぶつからないように三〇度くらいの二等辺を作る。上沢は初めて会った頃より背が高くなっていた。昔は俺よりわずかだけど背が低くて、だから余計年下っぽく感じたのだった。いつのまにか追い越されてしまい、二十歳すぎてから成長するなんてヘンな奴だと散々からかったことを思い出す。
「やっぱり雪、降ればいいな」
 コタツに寝転んで俺は独り言のように呟いてみた。
「雪って非日常な感じがするじゃん」
 この地方では雪は滅多に降らなくなっていて、それこそ去年のように一度も降らない年もある。それでもごく稀に大雪になる時もあって、そんな時には学校の始業時間が遅れたりして、やたらはしゃいだものだった。いつの年だったか、泥混じりのカマクラを作った記憶もあった。
 今シーズンは去年と打って変わって雪が多かった。だから今日のように雪催いの天気には期待してしまう。しんと静まった世界に、上沢と二人取り残されたみたいだった。上沢と二人でコタツに入って雪を待っているこの瞬間が、永遠のような気がした。永遠だったらいいのにと思った。当たり前みたいに二人でいたあの頃を思い出として抱えるはめになるなんて。俺をそばに置いてくれって上沢に泣きつきたいような気持ちにまでなった。
 こっそり横顔をうかがうつもりで顔を向けると、上沢もこちらを向いていた。俺は何も考えずにその名前を呼んでいた。
「上沢」
「加村」
 寝転んだ二人の間に距離がありすぎる気がして俺はコタツの中の足を上沢のほうに伸ばした。足が触れた後はそれだけじゃ中途半端な感じになってしまったので、芋虫のように上半身をズリズリと移動させた。上沢の目が俺の視界いっぱいに広がるくらいまで近づいて、ようやく安心できた。
 自然に唇が触れ合って、俺は確かめるように上沢の口に舌を差し入れた。逃げずにいる上沢の舌に舌をからめる。だんだんもどかしくなってきて、蹴飛ばすようにしてコタツから抜け出し、上沢の身体を抱きしめた。俺はずっとこいつのそばにいたい。
「加村」
 とまどうような声音に気づいても、今さらどうしようもなかった。
「上沢」
 自分でも言葉にできない気持ちをそのまま受け止めてほしくてその目を見つめた。
 永遠にも感じた見つめ合いの後、上沢は無言でのしかかってきた。上沢らしくもない荒々しい手に服を剥がれて、急な展開に俺はあせった。
「ちょ、ちょっと、上沢…?」
 裸にされた肩に喉に噛みつくようなキスがくり返し落ちてくる。無意識につっぱねようとした俺の手を、上沢は床に押しつけた。
「雪なんか待てない」
 頬をつけて囁かれ、上沢の手が俺の下半身に触れてきた。
「上沢ッ」
 俺は怖じ気づいて悲鳴を上げた。自分が何を望んでいたのかわからなくなった。上沢のそばにいたいという気持ちはこんなことだったのだろうか。馴染みのない手に翻弄され、肌が粟立った。無理やりに熱が引き出される。
「加村」
 うわ言のような上沢の囁き。ちがう。必死で首を振って否定しようとしても上沢の手は止まってくれなかった。一方的に俺を追いつめてくる。
「あ……あ……」
 ちがう。こんなんじゃない。けれど抗う心の片隅に、かすかながら上沢に翻弄されている自分に陶酔するような気持ちも確かにあって、それがさらに俺の恐怖心を煽った。
「いやだッ!」
 叫び声とともに、俺は上沢の手の中に精を吐き出していた。
 その事態を招いた張本人のくせに上沢は呆然と俺の精液に汚れた自分の手を眺めた。そんな上沢の様子を見た俺は悔しくて情けなくて、滲んできた涙をこらえることができなかった。
「…う…」
 漏らしてしまった嗚咽に、上沢が我に返った顔になる。
「ごめ…、加村、俺」
「…ちくしょう」
 俺は低くうなった。裸の俺の前で、ちゃんと服を着たままの上沢が俺の精液を持て余している。俺の欲望を勝手に暴いたくせに困惑顔の被害者を気取る。
「泣くなよ、加村」
「…俺ばっかり…う……俺ばっかりみっともなくして…。いっつも上沢は…一人で関係ないような顔してて……どうして俺……くやしいよ! なんだよ、自分は服を脱ぎもしないで!」
 泣きながら俺は上沢をなじった。
「加村」
「俺の気持ち引きずり出して…そんで、知らん顔して……上沢は卑怯だよッ」
 やけくその俺の糾弾に、上沢は決意した顔つきになって上着を脱いだ。それで手を拭ってから、そっと俺の頬に触れる。
「俺の本音は加村を傷つけるよ」
 悲しげな目で覗き込んできた上沢を俺は強引に抱き寄せた。
「そういうふうに! そういうふうに上沢が俺に遠慮してみせるから傷つくんだろう! そしたら俺も上沢に遠慮しなくちゃならなくなる。そんな余裕、俺にはねーよ。俺は上沢に遠慮なんかできねえ」
 服なんかに隔てられずに上沢に触れたかった。俺だけが裸にされるのではなく、しっかり肌を合わせたかった。
「雪が降りそうな朝に、期待ばかりしていたんだ」
 上沢は俺の顔のあらゆるところに唇を押しつけ始めた。俺はずっとこの唇を待っていたのかもしれない。
「加村のことは俺にとって、空が白くて寒い日に、降り出す雪を待っているような気持ちだった。卒業して会えなくなるなら、最後に告白しようと思ってた。それでも俺は意気地なしで、『雪が降ったら』なんて逃げ場を作った」
 上沢はいったん言葉を切り、確かめるように俺の顔を覗き込んだ後、下半身も脱ぎ捨てた。露にされたその欲望から俺は逃げたりしない。
「去年、雪は降らなかったから、諦めるしかないんだって思おうとした」
 上沢の手が再び俺の身体に火をつけようとしている。
「会わなければいいと思った。会わずにいれば忘れられると思ったんだ。そのくせ顔が見たくなってバイト先に行ってみたり、半端なことばっかりしていたよな」
 自嘲してみせた上沢は、唾液で指先を湿らせ、俺の後ろに持っていった。
「俺は加村をいっぱい汚してたんだよ。おまえに真っ直ぐな目で見られるたびにいたたまれない気持ちになった」
 骨立った指が中に入ってくる。
「ンッ!」
 拒むつもりじゃなく反射的に締めつけていた。
「加村」
 俺の名を呼ぶ上沢は信じられないくらい優しい目をしていた。俺は自分がすがるような表情になっているのを感じた。
「う…」
 中で動かされる指に、意志ではコントロールできない喘ぎが漏れ始める。内側から刺激されるなんてことはもちろん初めてだった。
「上沢ぁ、こんなん…嫌、だ…よ」
 たまらず泣き言を口にしても、上沢は容赦がなかった。
「慣らさないとダメなんだから、我慢しろ」
「ちが…俺は……上沢が望むんな…ら、それでい…から、こんなのしなくて…」
 強引に貫かれるほうがマシだと思うのに、上沢は冷静に指を増やしてきた。
「俺の望みは、加村が俺に感じてくれることだよ」
「ずるい。あ…ッあ。……ンッ! …上沢ッ、ずるい」
 俺だけが乱されるのは嫌だって何度も訴えているのに。上沢の指が俺を勝手に高めて、わけがわからなくなりそうだった。
「ちくしょう! なら、おまえが下になれよ、上沢! 俺はッ、こんなんじゃ嫌だッ」
 快楽に流されそうになる心を無理やり奮い立たせて、俺は上沢を怒鳴りつけた。
「今さらバカなこと言うなよ」
 上沢がやや興醒めした顔で呟く。
「うるせえ。上沢が俺の言うこと無視してんだろ」
「加村が言うことって?」
 すっとぼけてんのか、真顔で聞いてくる上沢に俺は赤面した。
「…早くヤれっつってんだよ、バカ!」
 俺は上沢がほしいんだ。
「泣くなよ、加村」
 そっちこそが泣きそうなツラで、上沢は俺の腰をつかんだ。
 もどかしいくらいにゆっくりと身体の中を進んでくる上沢の熱。真上にある上沢の表情を窺えば、それは今まで見たことのない真剣さと切実さを浮かべていて、俺の胸を熱くさせた。
「上…沢」
「加村ッ、加村、加村、加村」
 箍が外れたみたいに俺の名を連呼し始める上沢をアホだと感じ、涙が溢れてしまった。俺の中で上沢の熱が暴れている。
「ア…ッ、ああ……、は……上沢……んッ、んッ」
 上沢の動きに合わせて一体どこから出ているのかと自分でも不思議に思うくらいの声をこぼしながら、頭のてっぺん辺りだけがやけに透明になっているようで、俺は、眉を寄せて苦しげな上沢の顔に見惚れていた。上沢は力の加減など忘れたような強さで俺の肩をつかみ、一心に腰を突き入れてきた。
「ん……ッ、ん……ッ」
 クロスする息遣いの、どれが自分でどれが上沢なのかわからなくなる。
「上、沢…ッ、も…と、もっと……」
 このまま遠くに行ける気がした。
 白く光る空の向こう、無限に湧き出す雪を見た。



END





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