SWITCH色褪せたドアの前で深呼吸。吸い込むだけ吸い込んだらうまく吐き出せなくて過呼吸になりかけた。やばい、かなり緊張してるかもしれない。 チャイムを押した瞬間後悔した。らしくない行為だった。俺は今まで柳瀬の部屋のチャイムなんか鳴らしたことはなかった。 チャチなチャイムは短く鳴っただけであっさり沈黙したので、ごまかすためにいつものようにドアをガンガン殴りつけた。 「うるせーよ、野島」 すぐに不機嫌そうなツラが覗いた。 「鍵なんかかかってねーんだから、勝手に入ってくればいいだろ」 すっかり掠れきっている声でグズグズ言い出した柳瀬を押し戻して、俺は中に入った。 「んだよ、もう」 唇を尖らせる柳瀬は、もろに寝起きの顔だった。普段の取り澄ました表情を忘れている。 「二日酔いだろ?」 指摘してやると、柳瀬は「わかってんなら、来んなよな」と文句をつけながらもヤカンをコンロにかけた。俺は勝手知ったる、で奥の部屋に上がり込んだ。ほんの何時間か前にいた場所だ。 「何か忘れモンでもしたのかよ」 コーヒーを淹れてきた柳瀬が俺の正面に腰を下ろす。ものすごく機嫌が悪いが、こっちも右に同じだからびびってなんかやるもんか。 「ちがうよ」と首を振って俺は真っ直ぐに柳瀬の顔を見た。 「おまえが忘れちまう前にヤらせてもらおうと思って」 「ああ?」 柳瀬はコーヒーを啜りながら、気のない声で問い返した。 俺はハーフパンツのポケットに手を入れて、中のものを触って確認した。気合いだ、気合い。 「昨夜は、俺が、下になったんだから、今日は、おまえの番だよな」 う、ちょっとばかし息継ぎが多かったか。 俺はゴホンと咳払いした。目はそらさない。ボサボサに跳ねまくった髪に囲まれていてさえコギレイに見える顔を睨みつけてやる。 「何言ってんだ?」 そんな俺に頓着せず柳瀬はまだコーヒーを啜っていた。その少しも動じない態度に苛ついてきた。一人で緊張している俺がバカみたいじゃないか。 「おまえ、昨夜、俺のこと、ヤっただろ」 「何を?」 「だからッ、…セックス」 くっそー、なんで俺が赤面するハメになるんだ。 柳瀬はすっと目を細めた。 「俺がおまえと?」 すっとぼけたツラに殺意を覚えた。 「酔ってて覚えてないって言うのかよ?」 俺はさらに目に力をこめて柳瀬を睨みつけた。 「俺はちゃんと言ったんだ。おまえは絶対忘れるって。だから嫌だって言ったのに、おまえは大丈夫だって請け負ったんだぞ」 昨夜。いつものようにしたたか酔っ払った柳瀬を車でアパートまで送ってきた。 「野島、野島。帰んなよ。泊まってけって。酔っ払い運転でつかまっちゃうぞ」 部屋の中、担ぎ込んだら、柳瀬は俺の服をつかんで離さなかった。柳瀬は普段クールさを売りにしてるつもりらしいが、酔っ払えばすぐに本性が表れる。一緒に飲んだことがあれば柳瀬をクールだなどと感じる奴はいないだろう。 「おまえね、飲み過ぎだよ、いっつも。俺、ここに泊まってばかりいるから、家族に誤解されてんだぞ」 「誤解って何?」 とろんとした酔っ払いの顔で見上げてくる柳瀬には、普段みたいに冷たい印象がなくて、可愛らしい。俺は少しどぎまぎして答えた。 「アレだよ。彼女っつーか、そういうのだと思われてんの」 柳瀬は「ふーん」と呟き、黙り込んだ。部屋の中が静かになると急に時計の秒針が刻む音が耳についた。 しばしの沈黙のあと、柳瀬はいきなり俺にのしかかるようにしがみついてきた。 「なあ、野島。俺とエッチしようか?」 耳元で囁かれて、俺はとっさに反応できず固まってしまった。 俺は多分柳瀬が好きだ。それは友情ではなく、そういう種類の「好き」。柳瀬もそうなのかもしれない、と時々感じていた。だからってそれはどうしようもないことだと思っていた。だって俺、ホモになる気なんかないし。 柳瀬がもう少し華奢だったら考えてもいいと思っていた。俺より背が低くて、小さかったら。顔の造りはそれなりにキレイだから文句はない。もうちょっと女の子らしいというか優しい印象があればもっとよかったけど。 ガタイに差がないというのが問題だった。柳瀬のほうが俺より多少細いと思う。けど、身長はもしかしたら1、2センチ高いかもしれない。俺と柳瀬じゃとにかく半端なんだよな。ホモにもなりようがない。 だから俺は今まで柳瀬に何も言えなかったし、まさか柳瀬が言い出すなんて想像したこともなかった。 答えを探せない俺に、酔っ払いの柳瀬は言い募った。 「なあ、野島。俺さー、野島のこと好きなんだよ。だから、抱かせて」 「なんだって?」 耳にした言葉の思いがけなさに俺は素っ頓狂な声を上げていた。柳瀬は俺を恨みがましい目で睨んだ。 「俺、野島のこと好きなんだ。知らなかったなんて言わせないからな」 知らなかったよ。いや、なんとなく感じてはいたけど、確信なんか持てなかった。 それでも、こんな台詞は卑怯な言い訳にすぎない気がして口にできなかった。 それに俺が聞き返したのはそんなことじゃない。 「そうじゃなくって、その、抱かせろって、俺が下だってこと?」 「一回ヤらせてくれたら、この次は俺が下になる。約束するから、なあ」 なんでもないことのように柳瀬はねだってくる。 「酔っ払いの約束なんかアテになるかよ。どうせ飲んだ時の記憶なんかなくなっちゃうくせに」 すっかり甘ったれている様子に、柳瀬の酔いが相当深いことはわかっていた。ここまで酔ってしまえば晒した失態なんかけろっと忘れるに百万円、だ。 好きだなんて告白は、お互いに今更の気がした。俺はずっと柳瀬が好きで、柳瀬も俺のことが好きだと感じていた。今更口にする必要のなかったことを言葉にしてしまえばその先の話になるのは当然かもしれなかった。 「覚えてるよ! ちゃんと覚えてる。だから」 柳瀬は犬のように俺の身体に鼻を押し付けてきた。俺のTシャツをひっぱって脱がせる。 「柳瀬」 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。 俺には言い出せなかったことを柳瀬は口にした。酔っ払ってでもなんでも、柳瀬は行動を起こした。それが俺に妙な敗北感を抱かせていた。 柳瀬は俺の首筋に唇を当てた。 「ん」 「野島ってすぐ痕になるんだな」 クスクスと笑って柳瀬は試すようにあちこちに吸い付いてきた。自分が着ているシャツのボタンをもどかしそうに外しながら。 「好きだよ、野島」 すでに何度も口にされていたかのようにその言葉は柳瀬の声に馴染んでいた。俺からは言えなかった言葉。 俺は覚悟を決めて身体の力を抜いた。 「嘘だね」 柳瀬は平然と言い放った。 「野島は嘘をついてるよ」 その冷静な表情に、かーっと頭に血が上った。あれをなかったことになんかされてたまるか。 「嘘じゃねえよ」 俺は叫んで、Tシャツを脱ぎ捨てた。 「見ろ、ここ」 鎖骨の辺りを見せつける。さらに身体をひねって右脇を曝す。 「ここにも痕、残ってんだろ。てめえがつけたんだ。これ、柳瀬のキスマークだよ。ちゃんと証拠もあんだろ」 「ふーん」 柳瀬は近寄ってきて、まじまじと眺めた。剥き出しの肌に息がかかってぞくっとした。柳瀬は至近距離から上目遣いで俺を見上げた。 「じゃあ、下も見せろよ」 「は?」 「証拠だって言うんなら、そっちも見せてみろ」 柳瀬の手が俺の身体を回ってハーフパンツにかかった。 「ち、ちょっと待てよ」 まずい。俺、今日は脱ぎ易い恰好をしてきたんだ。段取りのためだ。あくまで俺が自分で脱ぐのに手間取りたくなかっただけだ。断じて脱がされ易いようにじゃない。 俺の思惑など無視して、柳瀬はハーフパンツごと下着まで引き下ろしやがった。 反応しかけてる俺のモノに気づいて「元気いいんじゃん」とからかってきたので、俺はぴしゃりと返してやった。 「ざけんな、バカ。今日は俺が上だからな。覚悟しろよ」 柳瀬は答えず、俺の足に絡まったままのハーフパンツのポケットを探った。俺が用意していた軟膏とゴムを見つけて取り出す。 「準備いいんだな、野島」 「当たり前だ」 俺はむかついて、自分でハーフパンツも下着も蹴り落とした。こっちばかり裸になってしまったが、こうなったらヤケクソだ。先に自分で脱いでしまえば、後は相手を脱がせるだけだ。 「こっちはてめえみたいに勢いで押し倒すようなバカじゃない。昨夜の俺の気持ちなんか、柳瀬にはわかんねーだろ」 「昨夜は何もなくてヤったんだ?」 「…」 いきなりの突っ込みに俺はとっさに答えられなかった。 「見せてみろよ。ケガでもしてんじゃないの」 足を持ち上げられそうになってあせってその手を避けた。 「大丈夫だよっ」 ちがうぞ、こら。だから今日は俺がおまえのこと抱くんだから。 「証拠見せるって言ったじゃん。キスマークなんかより、こっちをちゃんと見せてみろ」 素っ裸の俺に絡み付いてくる柳瀬の手。 「なんでだよ」 どうしよう。まずい。こんなの予定外の展開じゃないか。 昨夜、本当は最後までヤってない。柳瀬は本気で泥酔状態だったのだ。 「ふ、柳瀬…。俺、俺はおまえのこと…」 熱に浮かされて喘ぎ始めた俺に反比例するように、俺の身体をまさぐっていた柳瀬の動きが徐々に緩慢になっていき、やがて完全に止まった。そのまま柳瀬はぐったりと俺に体重を預けてきた。 「柳瀬…?」 俺に応えたのは寝息だった。 こ、のヤロー。びびらせやがって。勝手に眠ってんじゃねえ。 肩の線が尖っている痩せた裸をさらして、俺にしがみついたまま柳瀬はクークーと寝息を立てていた。 無防備な寝顔を見ていたら、なんだか涙が滲みそうになった。 柳瀬を好きな理由なんてうまく言葉にできない。 意外とガキっぽいところ。意外と大人なところ。かっこつけてるくせに笑い上戸。バカなことばっかりしておちゃらけてるのに変なところで真面目で融通が利かない。 俺が本気で落ち込んで「もうダメだ」と思った時に軽く「大丈夫だよ」と言ってくれた。落ち込みの原因なんて忘れてしまったのに、あの時の柳瀬の声だけいつまでも憶えている。 俺は柳瀬の部屋を抜け出した。説明のつかない悔しさが胸の中を渦巻いていた。 柳瀬のバカヤロー。 運転しながらそればかりを繰り返し唱えた。夜明け直前は夏の終わりを実感させる寒さで、白み始めた空が目に痛くて、涙を誘う。 柳瀬のバカヤロー。 家に帰り着いて不貞寝して、目が覚めても悔しさは残っていた。 どうせ柳瀬は全部忘れているに決まっている。俺だけが自分の気持ちを突きつけられて後戻りできなくなった。俺だけが柳瀬のせいでこんなに切ない気持ちにさせられている。 絶対リベンジしてやる。 俺は決意を胸にドラッグストアに向かった。軟膏とゴムを買い込んで再び柳瀬の部屋へ乗り込んできたというわけだ。 「せっかく薬買って来たんなら、塗っておいたほうがいいんじゃねえ?」 柳瀬は勝手に軟膏の封を開けて中身を指先に取った。 「バカ、そんなのいいんだよ、バカ」 俺はあせって頭が回らない。 柳瀬は俺を押さえつけて足の間に手を入れてきた。 「ここに、本当に俺の、入ったの?」 指先が少しもぐり込んできた。 「うあッ! や、やめろ」 ボサボサ頭に手をかけて押しのけようとしたが柳瀬はひるまなかった。 「なんでだよ? 昨日挿れたんだろ? 今さらじゃん」 「やめ…柳瀬、…嘘、嘘だよっ。俺、嘘ついたッ!」 とうとうゲロした俺に、柳瀬は「やっぱり」と無感動に頷き、さらに軟膏を指にしぼり出した。 「嘘つきにはお仕置きが必要だな」 「嘘つきじゃねーよ! 本当におまえ俺のこと抱こうとしたんだッ。次は俺の番だって約束したッ!」 ああ、もう俺、半ベソじゃねーか。くそー、こんなはずじゃなかった。 「いいよ。次は野島の番な。だけど、まだ終わってないから」 柳瀬は聞き分けのない子どもをあやすような口調で、俺の中に指を入れてきた。ためらいなく奥まで挿し込まれて俺は跳ねた。 「ああッ。やだよ、俺。ん…素面の時になんか…あ…、やっぱやだ」 呂律があやしくなる。 「野島」 柳瀬は今まで見せたこともないような優しげな表情になり、空いている腕で俺の頭を抱え込んで撫でた。その肩にしがみつき顎を乗せて俺は呻いた。 「ふ…、う、う」 中で動かされる柳瀬の指は、薬のせいでぬるぬるしているのに芯のある感触が気持ち悪い。下肢が痺れてくる。 「ずるいぞ、柳瀬。ずるい」 「うん」 俺の抗議に柳瀬は素直に頷く。髪が頬に触れる。酒臭くてタバコ臭くて最悪な柳瀬の匂い。どうしてそんな匂いに安心してるんだ、俺。 「ちくしょう、騙された。も、やだ、柳瀬」 身体の中をかき回されて、そこから溶けてしまいそうだ。 柳瀬は身体を離して俺を完全に横たえた。中の指がようやく抜き取られた。 「本当に次、ヤらせるから。ごめんな、野島」 素早く囁いて、柳瀬は俺の腰を抱えあげ、腰を進めてきた。 「ぅあっ! あ、あ、あ」 熱が入ってくる。 「柳瀬、柳瀬、柳瀬」 俺は背を反らして俺の腰を支えている柳瀬の腕を掴んだ。他にすがるものなんかなかった。 「んー!」 「息、吐くんだよ、野島」 歯を食いしばる俺に柳瀬の指示が飛ぶ。 「あ、あ」 「も…と、力、抜いて、…ん」 「柳瀬、俺、ダメ、も、やだ」 顎をあげて、子供のイヤイヤと同じように頭を振っている自分を、かなり情けないと思った。 「大丈夫、野島、大丈夫。も、入ったから、大丈夫」 そう言って柳瀬が動きを止めて頬を撫でたので、俺は一瞬息をついた。 「ふ」 その瞬間、柳瀬の手が俺の腰を抱え直して、一気に押し込んできた。 「!」 俺は声も出せずに仰け反っていた。嘘つきッ! 衝撃をやり過ごそうとお互いにじっとしていたら、じわじわと実感が湧き始めた。俺の中に柳瀬がいる。 「…柳瀬」 とうとう柳瀬と繋がっていると思ったら涙が出てきた。 「野島、痛い?」 困ったように訊かれて俺は柳瀬を見つめた。 「ちがう…俺、本当に柳瀬が好きだ」 柳瀬より俺のほうが柳瀬のことをずっと好きだ。 俺から言えばよかった。ちゃんと俺が柳瀬を好きだよって言いたかった。 柳瀬が相手ならホモになるのなんか、どうせたいしたことじゃなかったのに。 柳瀬が俺を折り曲げるようにして唇を合わせてきた。 「んっ、んん」 苦しくて、でも込み上げてくるものがあって、俺は舌を出して柳瀬に絡めた。 柳瀬が慣らすようにゆっくりと腰を揺する。 俺の反応は声にならずに喉がひくひくと鳴るだけだった。甘い疼きが立ち上ってくる。 「野島、大丈夫?」 「ん…」 しぼり出した俺の返事に柳瀬は少し腰を引いてまた入れた。 「あッ」 その動きが少しずつ大きくなる。 「は…、柳瀬ッ、あ、あ」 「野島、野島」 声が降ってくる。自分の内側に柳瀬のいる感覚が不思議だった。どんどん侵食されて俺が薄くなる。 言葉をなくして、声をなくして、ただ熱い息だけが口から洩れる。 俺は柳瀬に彼方まで飛ばされてしまった。 目が覚めてもしばらくは頭の芯がぼやけているような妙な心持ちだった。 のろのろと目だけを動かして部屋の中を探すと、窓際でタバコを吸っている柳瀬がいた。シャワーを使った後らしく、生乾きの髪をきれいになでつけて涼しげな横顔。 俺は自分が裸のままで平常に戻れていないのが悔しくなった。 「タバコ、俺にもよこせ」 仰向けに寝転んだまま、かけられていた毛布の中から、わざとブスくれた声を出すと、柳瀬は近づいてきて、吸いさしをひょいと俺の口にくわえさせた。 思いっ切り吸い込んだそれを、いつもの数十倍も美味く感じてしまった。 「ケチくせー。新しいのくれたっていいだろ」 悪態をつくと柳瀬は「バァッカ」と笑って、俺からタバコを取り返した。俺はフンと鼻を鳴らして寝返りを打ち柳瀬に背中を向けた。 「身体、大丈夫かよ? シャワー使うか?」 「大丈夫なもんか。すっげーケツ痛え」 嘘だ。下半身は痺れ切っていて、いまだに感覚なんか何も戻ってこない。起き上がることも難しそうだ。 「柳瀬には遠慮って言葉がないって思い知ったよ。信じられねーよ、バカ」 「もともと野島が嘘つくから」 柳瀬の声が微妙な響きで、俺はゆっくり身体を柳瀬のほうに向け直した。 「酔ってて覚えてなかったくせに、なんで嘘だってわかったんだよ」 下の立場なら今の俺みたいにケツが痛いかどうかでわかるかもしれないけど、俺だったら酔ってた時にヤったかどうかなんてイマイチ確信持てないし、相手に「ヤられた」と主張されたら信じざるをえないと思うんだが。 柳瀬は肩を竦めて、タバコを消した。 「野島は嘘ついてる時に相手の顔をいつもより凝視するんだよ。絶対目、そらさないの。んで、瞬きの回数だけやたら増えんだよな」 自分で知らずにいた癖を指摘されて思い当たった俺は何も言えずに唇を尖らせた。 柳瀬は消したタバコの先で灰皿の底に何か書いてでもいるような仕草を続けながら「それに」と付け加えた。 「満足感っていうか、達成感てのがなかったもん。ずっと好きだった奴とヤったら、どんなに酔ってたって覚えてるよ」 そう言って真っ直ぐに俺を見つめてきた柳瀬は、…ちくしょう、やたらかっこよかった。俺はずっと、柳瀬のすかしたツラより阿呆みたいにヘラヘラ笑ってる顔のが好きだと思ってたのに。 「次、本当にヤらせてもらうからな」 俺が恨みがましく呟くと柳瀬は「うーん」と考え込むそぶりを見せた。俺はむっとして毛布を跳ね除けた。 「なんだよ、それ? 約束だろ」 起き上がることはできず腕を使っていざって詰め寄った俺に、柳瀬は「だって野島、下手そうなんだもん」と返しやがった。 怒りのあまり失語症に陥りかけた俺の頭を上から撫でて囁いてくる。 「なあ、野島。俺、どうだった? よくなかった? きっとさあ、俺が上のほうがお互い気持ちよくなれると思うんだよね。無理に交替で、とか考えないほうがいいんじゃないかなあ」 「てめ、てめ、てめえ。どの口で抜かす。そんなの絶対許さねえからな。次は俺の番だ」 おまえも足腰立たなくしてやる。絶対してやるとも! 「しょうがねえな」 柳瀬は苦笑いで俺の額を指で軽く弾いた。 「そういう余裕の態度がむかつくんだ、てめえは」 力尽きた俺はそのまま柳瀬の膝を引き寄せて、枕がわりにして仰向けになった。 「俺のこと騙してヤろうとした奴には言われたくないね」 柳瀬が俺の鼻をつまむ。 「…俺だっておまえがつぶれてる時にヤろうと思えばヤれたんだ」 顔を横にして、ふてくされて呟いた俺に柳瀬は笑った。 「俺は野島のそういう半端に卑怯なとこが好きだよ」 俺は柳瀬の腰を殴りつけた。 「どうせなら、誠実って言え!」 |
自分でもワンパターンだなーとしみじみ思います。いいんだい、どうせこういうのが好きなんだもん。難しい話は書けないんだもん。(from佳瓜須牧)20020407UP |
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