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夏物語-1-



「あっついなー。また喉渇いてきた。コンビニあったら、寄ってくれ」
 ワゴン車の真ん中の座席を一人で占領して寝そべっている斉藤がいきなり唸り声をあげた。まるっきり熊だ。似たようなことを考えたのか、後部座席にぼくと並んで坐っている小島がクスリと笑った。
「なんだよ?」
 熊男がちょっと頭を上げる。小島は「別に」と答えてぼくに目配せを寄越した。
 正午近くの日射しのせいで、クーラーをかけていても、車の中の温度は徐々に上がっていくばかり。
「こっち側、日射しがもろに差し込むんですよ」
 小島が上体を倒してぼくの膝に頭を乗せてきた。呆気に取られるぼくの顔を見上げて、にやっといたずらっぽく笑ってみせる。
「ラフティングする前に日射病になったら困るから、避難しとこうっと」
 始まったばかりの夏季休暇に開放感に浸っているのだろうか。小島はいつもよりテンションが高い。
「席、代わろうか?」
 困惑して申し出ると、小島は軽くぼくの手をつかんだ。
「あ、高井さんが膝枕してほしい?」
「う。いや、いい」
 首を振って、顔を上げるとミラー越しに運転席の滝本と目が合ったので、ごまかすように声をかけた。
「あと何キロくらい?」
 さすがにお腹が減ってきた。コンビニを見かけるたびに買ったペットボトルのお茶を飲み過ぎて、トイレにも行きたい。
「んー、あと少しかな」
 助手席でナビを務める新田が、伸びをしながら答えた。
「お昼、どうする? このへんの名物はソバかな」
「あんまり時間ないんじゃないか? 集合十二時半だったよな」
 ぼくの言葉に、新田は慌てたように振り返った。
「ええっ、うそ、一時半じゃねえの?」
「ちがうよ、スタートが一時半なんだよ」
「やっべー。俺、勘違いしてた。どうする? コンビニしかないよな。悪い、滝本、次のコンビニ寄って」
 騒ぎたてた新田は、一人でさっさと結論を下した。最初に寄ったコンビニで交替してから、ずっと運転手になっている滝本が「OK」と頷く。
「今度こそ運転交替しようか?」
 ぼくの言葉にミラーの中の滝本は黙って笑みを見せて首を振り、代わりに新田が返事をした。
「ウチの車だぞ。誰がペーパードライバーになんか運転させるか」
「ぼくはペーパーじゃない。車が来てもう十日くらい経ってる」
 ぼくは就職のために車を買ったばかりだ。ドライブにも何度か行っている。まだ小島しか乗せたことはないが。一度斉藤を誘ったら「俺はもう香子の時に身体を張ったから十分だ」とわけのわからない断り方をされた。
「ずっと滝本ばっかり運転じゃないか。疲れるだろ?」
 滝本の「大丈夫だよ」という台詞にかぶせるように新田が断言する。
「滝本が一番運転がうまいんだから、いいの。小島が免許持ってればなあ。今年は取るんだろ?」
「ええ。合宿に申し込もうかと思って」
 ぼくの膝に頭を載せたまま、小島が答えた。前の席から斉藤が訊き返す。
「夏の? 今頃で入れるもんか」
「そうなんですか?」
 小島は気のない相槌を打ち、ぼくの指を軽く噛んだ。
「あ」
 不用意に声を上げてしまったが、タイミングよくコンビニを見つけた新田に助けられた。
「そこだっ! 滝本」




「高井、夏休みに入ったらラフティングに行かないか?」
 ゼミ合宿の打ち合わせ中、斉藤が耳打ちしてきた。助手の市川さんはいい人なんだけど、説明がくどい。先刻から交通手段の確認をしつこくくり返していて、ぼくらはちょっとうんざりしていた。事細かに電車の時刻表まで広げなくたって、みんな子どもじゃないんだから。院生が市川さんの相手をしてくれているのをいいことに、研究室のあちこちで、私語が始まっていた。
「ラフティング?」
 オウム返しに訊ねると、斎藤は頷いた。
「そ、急流下り。新田のオススメでさ。あいつ何回か行ってるらしいよ」
「それって、結構事故が起こってるんじゃないか?」
 新聞に死亡事故の記事が載っているのを何度か目にしたことがある。
「あー、うん、M町のほうは閉鎖されたみたいだけど、新田が行ってるのは、N町だって。M町より全然安全らしいし、近いだろ?」
「全然安全」なんて、おっさんのくせに斉藤は副詞の使い方を間違えている。ラフティングでぼくが聞いたことがあるのはM町だけど、N町でもやっているのか。
「近いったって、三時間はかかるだろ?」
「だから宿泊パック。メンバーは今のとこ、新田と俺と小島。小島、夏休みに帰省するから、その前に高井と遊びに行きたいんだって」
 にやりとチェシャ猫みたいな笑顔でからかわれて、ぼくは斉藤をこづいた。
「アホ」
「人数多ければ交通費が安くなるからさ。新田が家のワゴン、出してくれるんだ。あとは滝本あたりを誘うか」
 去年のクリスマスに集まったメンバーだった。すぐに彼女をゲットしてみせると散々気勢をあげていた割に、新田も滝本もまだ独り身なんだよな。もっともあいつらはぼくも同類だと思っている。おっさんの斉藤にさえ恋人がいるのになんで俺たちにいないんだ、などとぼやかれて、相槌に困ることがあった。
「八人乗りのワゴンだからよ。あと三人、誰にする?」
「八人って、八人も乗ったら絶対きついぞ。三時間も乗るんだろう?」
 ぼくが釘を差すと、斉藤は曖昧に頷いた。
「うーん、まあ、でもせっかくだから高井も誰かいたら誘ってくれ」
 結局最終的なメンバーはその五人になった。




 コンビニで買い込んだおにぎりやサンドウィッチをそのまま駐車場で食べ、ラフティングの集合場所には十二時半ぎりぎりに到着した。ワゴンを降りて荷物をごそごそやっているところに、茶髪の少年が近寄って来た。
「新田さん」
「あ、内野さん、よろしくお願いします」
 声をかけられた新田が振り返ると、内野さんと呼ばれた少年は、手にしたフォルダーにボールペンでチェックを入れながら言った。
「新田さんたち、五人ですよね? すみませんが、あっちの女の子三人と一緒のボートでお願いできませんか?」
 内野さんが指し示した先には、はしゃぎながら救命ベストを着けている女の子たちがいた。
「あ、ほんと。ラッキー」
 新田が歓声を上げた。
「じゃ、まず一人一人申請書を書いてほしいんです。その後水着に着替えてください。更衣室は向こうで、手前が男性用ですから」
 更衣室とは名ばかりのプレハブ小屋で水着に着替え、その上にTシャツを着て出て行くと、救命ベストやヘルメットを渡しながら、内野さんが女の子たちに引き合わせてくれた。
「えっと、佐久間さん、松野さん、塚原さんです」
「よろしくお願いしまーす」
 女の子たちは声を揃えて頭を下げた後、クスクスと笑った。
「みなさん、ラフティングは初めてですね? 経験者は新田さんだけで。とりあえず川に着いてからいろいろ説明がありますから」
 促されて、ぼくたちはぞろぞろと川に向かって歩き出した。
「君たちは学生?」
 さっそく新田が女の子たちに話しかけた。佐久間さんがにこっと笑顔で答える。
「そう。今は別の学校なんだけど、高校の同級生なの。みんなは大学生?」
 佐久間さんの視線の先にいた小島が「うん」と頷いた。
「何年生?」
「当ててみ」
 新田が楽しそうに言う。
「えー、みんな同じ学年? ちがうでしょ?」
「だから当ててよ」
「斉藤くんは四年生」
 それだけはまちがいないと確信をこめて断言されて、ぼくたちはぷっと吹き出した。誰が見ても斉藤はおっさんだ。佐久間さんが真剣な顔でぼくたちの品定めを始める横で、松野さんと塚原さんがクスクス笑っていた。
「えー、んっと、斎藤くんと新田くんと滝本くんが四年生。小島くんは敬語使ってたから三年生。高井くんは、うーん、二年生か三年生?」
「すっげーオオハズレ」
 新田が茶化した。
「なんで」
「俺たち四人が四年だもん。小島だけ二年」
「えー、そんなに外れてないじゃない。じゃあ、私たちはいくつだと思う?」
「中学生?」
 小島が佐久間さんをからかった。
「ちっがーう」
 二人がじゃれ合うように言葉を交わす脇で、ぼくの隣を歩いていた松野さんが「高井さんて、四年生なの?」と訊いてきた。「うん」と頷くと、新田が「見えないだろ? お子ちゃまなんだよな、高井は」とぼくの肩におぶさってきた。
「なんだよ、重いだろ。お前らが老けてんだよ、ぼくは普通」
 ヘルメットとオールで両手がふさがっていて反撃できない。
 佐久間さんたちは去年高校を卒業したばかりだと言った。佐久間さんが地元の女子大、松野さんと塚原さんは東京の専門学校に通っているらしい。
 三人とも可愛らしい女の子たちだったが、特に佐久間さんは、人懐こくて感じが好かった。小島も佐久間さんを気に入ったらしく、たびたびからかっていた。
 川に着くと、先に車で運ばれていたゴムボートを河岸まで自分たちで担いでいくことになった。はしゃぎ声をあげながらも女の子たちは真面目に力を出していて、イイコたちだなと感じた。
 十台ほどのゴムボートが用意されて、それぞれに担当のガイドがつく。ぼくたちのガイドは内野さんだった。
 川に入ってしばらくは、彼の指示に従って前漕ぎ、後ろ漕ぎとオールを動かすだけだった。時折、急流に入ると女の子たちはキャーキャーと叫ぶくせに、教えられたコーヒーカップという漕ぎ方でさらにグルグルとボートを回しては楽しんでいた。慣れてきたところで、同じツアーの他のボートに近づき、オールで水をかけて悲鳴に雄叫びを上げる。すぐに相手のボートから反撃が開始されて、逃げ出した。
「じゃあこの辺で泳ぎたい人は川に入ってください」
 中ほどまで下った後、内野さんに言われて、ぼくたちはゴムボートから降りた。降りた辺りは浅瀬で、楽に足が着いたが、泳いでいくうちに足の着かない深みになった。救命胴衣のおかげで沈むことはないが、泳ぐには邪魔になってなかなか進まない。流れのある水は結構冷たくて、だんだん寒くなってきた。
「私、ほんとは泳げないの」
 佐久間さんの言葉に、近くにいた小島が「あはは」と笑い声をあげた。
「ほんとなのよー。引っぱって」
 佐久間さんが小島に手を差し出す。
「ははは、やだよ。自力でがんばれ」
「ひどーい、小島くん」
 佐久間さんは小島に向かってパシャンと水を跳ね上げた。
「わっ、何すんだ。お返し!」
 二人の跳ね上げる水が周りにもかかって、バシャバシャと全員で水を掛け合うハメになった。
「やだ、もー、お化粧が落ちちゃう」
 佐久間さんがベソをかく真似をして笑いをとる。
「誰が始めたんだ?」という新田の言葉に、
「私ー。でも楽しいでしょ」
 片手をあげてクスクス笑ってみせる。屈託のない可愛い女の子だった。
 泳いで行った先にボートが岸に繋がれており、そこは飛び込みのポイントになっていた。崖を登っていく。
「うそ、私、渡れない」
 岩が途切れているところで佐久間さんが足を止めると、先に行った小島が手を差し出した。
「ヒュー、小島、紳士じゃん」
 からかう新田を無視して、女の子たちを次々に引っぱってやる。そのままぼくの前にまで小島の手が差し出されて、ちょっとびっくりした。見上げると当然の顔で小島は手を出している。ぼくはその手を握った。水の中にいたせいか、冷たい手だった。小島はぼくを女の子扱いしたのだろうか。
 崖の上からは、川面ははるか下に見えた。さすがに足が竦む。ガイドたちに「無理しないで、飛び込めない人には、後で降りる道を教えます」と言われ、参加している女の子たちのほとんどは飛び込まないことになった。松野さんも塚原さんもやめたが、佐久間さんだけは飛び込むと言った。
 お調子者の新田が一番先にやってやると言ったので、ぼくたちのグループから飛び込むことになった。ぼくの前に小島が飛び込んだ。飛び込む直前、小島はニッとぼくに笑ってみせた。
「サン、ニ、イチ」
 カウントを受けて、ぼくは空中に身を躍らせた。一瞬の間があって、水の中にいた。水面に浮かび上がって離れたところに待機しているボートを目指して泳ぐ。ぼくがボートによじのぼっている後ろで、派手な水しぶきを立てて斉藤が落ちた。
「すっげーコワかった」
 水を滴らせながら、斉藤がボートに上がってくる。
「お、佐久間さんだ」
 一回目のカウントの途中で佐久間さんはしゃがみ込んでしまった。「大丈夫かな」と見守るぼくらの目の前、二回目のカウントで見事に飛び込む。ボートに上がると、得意げにVサインをした。
「やったじゃん」
 小島の言葉に「うん」と嬉しそうに頷く。
「せっかくだもん、チャレンジしなきゃね」
 ボートを岸につけて飛び込まなかった人たちを拾って、再び川を下っていく。そうして二時間弱でラフティングは終わった。帰りはバスに乗って最初の集合場所まで戻った。それはかなりの距離で、ずいぶん川を下ったのだと実感させられた。
 再びプレハブの更衣室で水着を脱いだ。シャワーの場所がわからなかったが、そのままホテルに行くことにしたので、さっさと着替えだけを済ませた。水道で足を洗ったり、荷物を車に積んだりしているところに、同じく着替えを終えた佐久間さんたちが出てきた。赤いギンガムチェックのワンピースが佐久間さんに似合っていた。
「今日は泊まりなの?」
「そう、宿泊パック。そっちは?」
「私たちは近場だもん、日帰りよ」
「近場なのに泳げないの? 子どもの頃にこの川で泳いだりしなかったんだ?」
「やーね、近場って言ったって、車で三十分くらいかかるもん。川で泳いだりしないわよ」
 そんなことをダラダラと話していた。ふいに佐久間さんは小島を見上げた。
「小島くんの彼女ってどんな人?」
「何、いきなり」
 瞬きした小島に、佐久間さんはちょっと笑って、小島の左手をつかんだ。
「指輪。そうなんでしょ?」
「ああ、これ」
 小島がちらりとぼくに視線を寄こして、ニコッと笑った。ぼくはうまく笑うことができなくて、つと視線をそらしてしまった。
「ラブラブなんでしょう。いいな、そういうの」
「いないの、彼氏?」
 小島がハーフパンツのポケットに両手を入れて、頭一つ分身長差のある佐久間さんを覗き込んだ。二人の様子は、夏というテーマの映像めいていた。
「いなーい」
「ダメじゃん」
「ダメだよねえ」
「おい、そこ。二人の世界を作ってんじゃないよ」
「何言ってんですか、新田さん」
 新田の野次に、急に小島が途方に暮れた顔になって、ぼくを窺った。ぼくはじゃれ合う二人を見て、確かに淋しさを感じたけれど、嫉妬はしなかった。小島に似合う女の子が現れたことに不思議な安堵を覚えていた。
 今度こそちゃんと笑ってみせる。そう思ってぼくがからかうような笑みを作ると、小島の表情が緩んだ。
 佐久間さんは携帯を取り出した。
「ね、小島くんの番号教えてくれない?」
「え? ああ、うん」
 小島が頷いて、携帯の番号を言うと、佐久間さんはそのまま小島の携帯を鳴らした。
「それが私の番号。ヒマな時は電話ちょうだい」
 佐久間さんはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。
「あ、いいな、小島。俺も聞いちゃおう。三人とも番号教えて」
 新田が言って、結局全員の番号を交換することになった。



 ホテルの夕食はバーベキューだった。最初だけは地ビールで乾杯したが、クセのある味に馴染めなくて二杯目は生ビールにした。バーベキューは意外とボリュームがあって、ぼくらは結局ビールを二杯飲んだだけだった。
「宴会は部屋に戻ってからな」
 せっせと肉を口に運びながら、新田が言う。途中のコンビニで缶ビールや発泡酒を買い込んであった。でかいクーラーボックスを抱えてチェックインした新田の神経をぼくはいっそ尊敬する。そして部屋で散々飲んだ後に、斉藤は急に風呂に入ると言い出した。
「おまえ、死ぬぞ」
 ぼくは呆れて止めたが、同じように酔っ払いの新田も一緒に行くと言ってきかない。
「仕方ねえな。俺がついてってやるよ」
 諦めた滝本が監視役に立候補して、ぼくと小島が部屋に残された。
「実はさっきから高井さんの浴衣が気になってたんですよね」
 二人きりになった途端、小島は隣に移動してきた。
「胸元、見えすぎ」
 そう言ってぼくの衿元をなぞる。ぼくはぽかんと小島を見上げた。視線を自分の浴衣に落とす。別に普通だと思う。斉藤なんか腹まで見えてたじゃないか。
「同じだろ。小島のが開いてるくらいじゃんか」
 小島は黙ってぼくを引き寄せた。額をつけて目を覗き込む。アルコールが回っているせいか、目元が赤く染まっていて、色っぽい。
「ちょっとヤバイかな。制御きかなくなりそう」
 ぼくの首筋に顔を埋めて困ったように囁く。
「佐久間さんって可愛いよな」
 唐突だったらしいぼくの言葉に小島は一瞬目を丸くした後、嬉しそうに笑った。
「高井さん、それってやきもち?」
「ちがうよ」
 首を振るぼくを抱きしめて、キスしてきた。
「電話かかってきたらどうする?」
「かかってこないと思うけど。じゃあ、もし高井さんにかかってきたら?」
「それこそかかってこないよ」
「そうかな。松野さん、ちょっとアヤシイ」
「まさか」
 少し経ち、どこかの部屋のドアが開く音がして、ぼくらは離れた。



 ラフティングの後すぐに小島は帰省した。ぼくの方も帰省したりゼミの合宿があったりしてどうせ会えないことがわかっていたので、小島がアパートに戻ってくるのは一ヶ月以上先の予定だった。
 会えない間、佐久間さんから小島に連絡があるだろうかと考えていた。
 佐久間さんは可愛くて、小島にはお似合いだとわかっていた。小島はぼくとつき合うより佐久間さんとつき合うべきなのだ。二人は最初から自然に惹かれ合っているようだった。小島がゲイとして男のぼくとつき合っているのは不自然で、佐久間さんのように魅力的な女の子が現れれば、小島が彼女とつき合い始めるのは、当然の成り行きに思えた。
 小島は当たり前のようにぼくを抱く。小島にとって恋人は女の子が普通なのだ。ぼくに向けられる小島の何気ない言動は、時折ぼくに自分が女の子であればいいのにと思わせる。彼の視線の先で素直に甘えられる女の子であったら。佐久間さんは理想的だった。小島と並んで違和感のない女の子。
 二人のことを考えていると、暑い夏の最中にもかかわらず、ふいに凍えるような寒さを覚えた。
 それでも、ぼくには嫉妬することはできなかった。ぼくはぼくでしかいられない。可愛い女の子にはなれないし、女の子の真似をすることもできない。もしも二人がうまくいったら、きちんと祝福してやりたかった。例え佐久間さんとでなくても、いつか小島には可愛い女の子が現れるだろう。その時が来たら、ぼくは笑ってさよならと言わなくてはいけない。そしてぼくたちは元の友人同士に戻れるだろうか。友人としてでいい、ぼくは小島を失くしたくない。



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